救いが欲しけりゃ金を出せ | ナノ


▼ 9

守柱が復帰した。

その噂は瞬く間に鬼殺隊の間を駆け抜ける。かつて、鬼を前にして死人一人として出さなかった柱。二年前、突然として己の屋敷に閉じこもった剣士。その相棒は青龍偃月刀といい、あまり見ない形の刀だ。一見は薙刀にも見えるその姿。そして一つだけ穴の開いた刀の部位には紅のリボンと鈴が掛けてある。刃の背の部分には龍が描かれており、柄に悪鬼滅殺の文字が金の装飾と共に飾られる。柱の容姿は酷く美しく、一見女と見間違うばかりの美貌。その太刀筋から考えられぬほどに細くしなやかな身体つきらしい。

そして何より、守柱は金にがめつい。

何かをするたびに金を徴収する。けれどその額もひどく安く、高くても2円ほど、命を張るにしては安い額だったとのこと、そんな守柱は今、ひどく上機嫌に目を細めて鬼を連れた少年の見舞いに来ていた。




「炭治郎。前に好きだと言っていた饅頭を買ってきた。一緒に食べよう」
「あ、ありがとう兄ちゃん。でも毎日持ってこなくても…」
「禰豆子に似合う髪飾りもあるんだが…」
「兄ちゃん。それもう5本目…」
「似合うだろ?」
「うん…」




炭治郎の目は死んだ。

箱から禰豆子を抱き上げてその髪に差し込み、うっとりと目を細める姿は美しい。美しいがひどく申し訳なくなる。この屋敷の長こと胡蝶しのぶによれば二年前から、ちょうど自分たちが無惨に襲われ、消息を絶って以来、この守柱と呼ばれる男、門竈道幸はひどく憔悴し、姿を見せずに日々を過ごしていたらしかった。柱の中でも得に仲の良かった炎柱、水柱、そのほか数名が屋敷の中を出入りでき、生存確認は行われていたらしいが、それでも公式の場に姿を見せたのはあの日が久しぶりだったとのこと。

昔から自分たち家族にはひどく甘い人だったが、それがひどくなっている気がする。

けれど、その愛を心地が良いと思っている自分がいるのも事実だった。




「兄ちゃん」
「どうした?」




紅の双眸が自分を映す。その瞳に笑いかけて、炭治郎は口を開いた




「次は、兄ちゃんの眼みたいに綺麗な色をした、お土産がいいな。それまでは、任務頑張ってね」
「―――、おう」






















「――って、言われたわけだが、なあ、煉獄、この石はどう思う」
「よもやよもやだな。あれほど離れたがらなかった君が溝口少年から離れるとは!!」
「次、炭治郎の姓間違えやがったら金取った後に殺す」
「すまん!」
「うるせえ」




そっ、と、店に置いてある紅系統の簪や耳飾り等の装飾を物色するがそれらしき色がない。任務を成功させたというのにこれでは帰れないではないかと頭を抱えた。悩んでいるうちに烏が飛んできて任務を叫ぶのだから堂々巡りだ

頭を抱える道幸に煉獄は心の中で炭次郎に拍手を送る




「(あの少年も素晴らしいものだな、道幸の瞳と同等の装飾品を見つけるまで帰ってくるなとは、あの双眸に勝る色の装飾品など、本当にあるかどうか謎だ、それに、そんなものがあるなら俺が買い取りたい)」




それでも本物には勝らないのだろうなと思ってしまう。ただの気休めでしかないのだ




「さて!次の任務が来るまでの間、甘味屋で茶でも飲もう!」
「いやだよ、お前、見てるこっちが胃もたれするほど食うだろう」
「うまい!」
「まだ何も食べてないだろが」




はあ、っとため息をつき、余計な争いごとを避けるため、店を出る前に上半分だけしかない狐面を被る。その様子を煉獄は残念そうに見つめた。意志の輝く美しい紅の双眸をもう少しだけ見ていたかったというのに。

この男の顔を煉獄は好ましいと思う。それはあくまで観賞用としての意味で、本当の美しさはその心だとも思う。曲がっているようで曲がっておらず、曇っているようで曇っていない。まるで万華鏡のような性質を持つ男だ。その癖本当に大切なものは脆くも儚い薄氷のように割れていく哀れな男。いくら大事にしまっていてもその手からこぼれ落としてしまう定めの男だ。その哀れさがひどく愛おしい。つい最近まで壊れたように涙を流す姿も美しかったなと思いつつも面白くないとも思う。どうしてそこまで心を砕く相手が俺ではないのだろうと、最近になって初めて見たと言ってもいいほどの親愛の笑みをどうして俺に向けてくれないのだろうと、あの兄妹に見せる、とろりとろりと甘く蕩けるような色の朱い目がひどく羨ましい。




『たんじろう、ねずこ…』




蝶屋敷で眠る彼らに駆け寄って、まるで甘えるような声音。それを思い出し、思わず喉に手をやる。気を抜けば獣のような音が漏れそうだった。


グルグルとひどく腹が減る。




「おい、行くぞ煉獄、伝令だ、十二鬼らしきものが出たとのことだ」




その腕に黒くも美しい烏を止めてこちらに目線をやる男に笑みを見せる。




「そうか!それにしても久方ぶりだな!」
「俺とお前はココでいったん分かれる。ああ、弱い鬼なら残しておいてくれ。俺が狩る」
「……よもやとおもうが、御屋形様とのあの約束はまだ継続していたのか…」
「鬼一匹につき4円。忘れてねえよ。あの2年間怠惰を思う存分満喫した、働いて稼がないと炭治郎達にうまいモノすら食わせてやれねえ。あと、師範がひどく、怒ってんだ…」
「………よもやよもや、だな、あの御方も怒るのだな!口調は荒いが門竈には何をされても怒らないと思っていた!」
「師範は結構怒るぞ」




軽口をたたきながらも旅支度の手は止めずに二人はそれぞれに必要な物資を購入した。そして、何も言わずに背を向けて任務へと向かう。どうせ現地で合流するのだから、言葉は多くなくていい。




「ま、十二鬼だ、気ぃ抜くなよ、煉獄」
「お前もだぞ、門竈」



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