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駆ける。駆ける。見えてきた家の前で男児と幼女が戯れているのを目に入れて、俺はその速度を上げると、二人を救い上げて抱きしめた
「炭治郎〜〜〜!禰豆子〜〜〜!」
「うわぁっ!?」
「うー??」
小さい二人を抱きしめてその頭を撫でれば驚いた声を出した炭治郎が次第に楽しげな声を上げ、禰豆子が髪を引っ張る。少しだけ痛い。けれど、ひどく幸せの匂いがする。俺は炭治郎や兄さんのように鼻が良くないから細かな匂いはわからないけれど、けれど、この匂いが幸せだってのは理解できるんだ
「兄ちゃん、今日はいつまでいるんだ?父さんの行商についてくのか?」
「いいや、今日は兄さんに顔を見せてすぐに立つよ。兄さんは今具合がひどく悪いからね。俺が兄さんの代わりに行商。ついでに兄さんの薬も調達してくるさ。なんせそろそろ冬で薬師の方もここに来ずらくなる。」
「ふーん。俺も参加したい。俺が後継ぐんだし!」
「今回はまだ駄目。」
えー!っと不服そうな声を上げる炭治郎を地面におろして、引き戸を開ければすでに行商の用意がしてある。その奥で何度も立ち上がろうとしつつできないでいる兄さんを姉さんがひどく立腹しながら寝かしつけているのに思わずクスクス笑ってしまった
「兄さん。姉さんも身重なんだから、あんまり怒らせちゃダメだぜ」
「や、やあ、道幸。俺も行くよ」
「ダメって言ってるのが聞こえてますか炭十郎さん!」
「ほら、姉さんが怒る。姉さん、コレ少ないけど薬置いとくね。多分帰ってくるのは一月後になると思うが、薬、持って帰ってくる」
炭の多くはいる荷車を見つめてそういえば、ひどく心配そうな二人に笑みを向ける
「いつも言ってるけれど、気を付けて」
「いつも悪い。俺がもう少し頑丈であれば…」
「何言ってんだよ。俺は俺がしたいようにしてるんだ」
ああ、愛おしいと思った。俺が守るべき幸せは。ひどく、愛おしいと。
帰ればお帰りと笑って出迎えてくれる人がいることがひどく幸せだった。
無事な姿を見せれば憎まれ口をたたきながらも好物を作って待ってくれている師範が居て、逢うたびに成長する愛おしい子供たちが居て、褒めてくれる人がいることが心地よくて、暖かな人に囲まれてて。だからこそ、忘れていた。
人は、こうも醜いのだと。
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