何のために塩対応してると思っているんですか? | ナノ


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と、まあ、これが私と彼の初対面であり、そのあとずるずると萩原君とも知り合ったわけである。彼との出会いはある意味運命だった気が戦でもない。だって最初「女なんか信用できるか」っていう態度だったのに、時がたつにつれて普通に親しい友人並みには仲良くなったのだ。ほら、わたしって今、美人だから美形の悩みってわかるのよ。自分でいうな?ごめんって、某祝賀会からまだ一日もたってなくて精神的に死んでるのよ、いたわって。


まあ、遠慮なくネタにするんだけどね。

作業用パソコンの前に立ってそうのたまった私に、後輩Bこと景光は戦慄したと言わんばかりにこちらを凝視して、なにか悟るような微笑みを浮かべた。ごめんって。




「あ、そうそう、松田君と萩原君っていう知り合いが明日、来る予定なんだけど」




後ろから物が割れる音が響いて、思わず頭を抑えた。マジか。知り合いか。
ってことは必然的に後輩Aの同期でもあるってことね。イケメンはイケメンを呼ぶ。類は友を呼ぶ。

ちなみに昨日後輩Bを踏みつけて般若のような顔をしていた後輩Aは仕事があるんだと涙ながらに帰っていた。




「そういえば昔、先輩が珍しく男同士の恋愛を一週間で書き上げたことありましたね。俺は恐ろしくて部屋に入りませんでしたけど。題名が…」
「『松下君の萩山君』ね。懐かしー。続編の声もあったけど、もう書かないわ。泣いてたし」




こんど話の内容的にネタにするなら是非とも俺と沙紀さんに似た登場人物のラブコメをだったか。ごめんね私ラブコメ書くの苦手なんだわ。
それ以来私は彼らを松田君の萩原君コンビと呼んでいるわけだが、本人の目の前で言えばお互いがお互いをなきものにしようとするため最近は自嘲している。君ら何してるの??

本来仲はいいはずなんだけどね??ん???


割れた皿をかき集める後輩を見つめつつ、パソコンを起動させて覗き込む。うん今日も絶好調だね相棒。ノートと書かれるアプリを開いてネタを確かめると、別のアプリに文章を打ち込んでいく。あとはこれを原稿用紙等にコピーして誤字脱字がないか確認したり、会社によっては内容をメールで送信したりする。まあ、一冊書くのにどれくらいかかるは人それぞれな気はするけれど、私は大体、一か月あればいい、調子が良ければの話だけれどね。調子がいい時、私は一日中パソコンの前から必要最低限動かない。動いたら最後、指が止まるのだ。それだけならまだいいのに、頭の中で出来上がっていた文章も消えるので必然的に動けない、消える前に打ち込むことを重点に置く。

浮かばないときはまったくもって浮かばないので、浮かぶうちにかける分だけ書くのが私の中の信条




―――電話が鳴る。まって、今いい所。




「出て」
「はーい」




後ろで控える後輩に短い指示を出し、横に置かれていたマグカップに口を付けるが、ふと入っていないことに気づく。




「ごめん、その電話が終わったらーー…何してるの」
「いえ、だから人違いでっ…!せ、せんぱぁい…」
『てめぇこのやろう何が先輩だ!てか人違いじゃねえだろ、なんで沙紀さんの家にお前がいる景光ぅ!!!』
「知り合いなの?よかったね?…萩原君、そこに松田君もいるのかな?」
『あ、はい』
「入っておいで。寒いでしょう」




開けとくから。

左にあるボタンを押しせば、その数分後にジャンパーに身を包む二人組が入ってくる。

そして、そっと靴を脱ぎ、そろえると、スッとクラウチングスタートの構えを取り、萩原君は後輩Bに向けて駆けだすとそのままけりを入れた。やだ綺麗…。




「てめぇこのやろうっ!急に音信不通になったと思えば沙紀さんの家で同居とかどういう了見だ、あ“あ”ん!?」
「うぐぅ…にどめぇっつ!」
「ことと次第によりゃぁその鬚むしるぞ羨ましい!」
「君ら仲良しだねぇ」




本当に仲良しだねぇ。呆れたように煙草をふかしながら「うるせぇ」と私の横に移動する松田君は迷惑そうに二人を見るばかりだ。副流煙…、




「まあ、来てもらったところ悪いけど、私は何ももてなせないよ?今からネタを打ち込むし」
「おい待て、まさかとは思うがアレか??」
「それはもう書かないって、…昨日の祝賀会で殺人事件があってね、本当にこの町どうなってるんだか」




今書いてるミステリーのネタにでもさせてもらうさ。




「わーった。で、夜の焼肉はどうするんだ?」
「行く行く、行くけどっと…ああ、そう言えば松田君」
「ん?」
「君が連絡先ほしいって言ってた子なんだけどさ、今度合コンに参加するだって、手筈は整えてあげるから行って来たら?」
「おっ」
「ただし、向こうからしたら初めましてなわけだから慎重に進めること」




OK?確かめるように言えば、まるで獲物を見つけた肉食動物のような笑みで笑う。それ本当にOKの顔かな??
あとそろそろ後輩Bのうめき声がひどい、どんだけじゃれ合うつもりだ




「萩原くぅーん?」
「すみません今取り込み中で…!」
「それ以上長くするなら今度は景光と君のBL書くけどいいの?」
「今度俺をモデルにするなら沙紀さんとのラブコメってお願いしたじゃないですかぁぁぁあああ!!」
「後輩B、お茶」
「喜んでぇ!!」




今のうちに行け。ありがとうございます!

目線での会話一秒にも満たず。
素早い動きで台所へと非難した彼はおそらく茶の葉を蒸すところから始めるんじゃなかろうか。

後ろで泣きまねをする男と腹を抱えて笑う男に向き直りつつ今日の予定を確認する




「そういえばどこのお店に行く予定?」
「米花デパートの…」
「あそこ昔爆発してなかったっけ」
「この町の修復工事早いよな」
「わかる」
「たしかに」




大工さんはぶっちゃけそろそろ切れてもいいと思う。あ、でも逆に儲かってるのかな?やばい、そこが気になってもはや小説どころじゃなくなってきた。




「焼肉行くかぁ…」
「え、沙紀さん小説は!?」
「もういい」




別のことが気になってヤバいので。




▽▼▽





「わぁーい!おじさんありがとう!」
「うっそでしょう」




なんでどこにでもある焼肉チェーン店にいらっしゃるんですか死神様ぁ

僕お肉だぁいすきと言わんばかりの猫なで声にドン引き。いや、見てる分にはとてもかわいいとおもいます。でも、知ってるとさ怖いよ。




「お肉食べる気分じゃなくなった…」
「おう、じゃあこういううどんでも」
「でも焼肉食べに来て食べ放題でお肉だべないなんてある意味申し訳ない」
「気にしなくても目の前の警察官が二人分くらいペロリと…」
「お前も食べるんだよ」
「あ、はい」




タッチパネルでうどんやら寿司やらを注文してくれる後輩たちが優しい。あとこちらをチラチラ見る主人公が嫌だ。少しだけ遠い目をしながら何気なく目線を横へと打ちしたとき、前方に座っていた客の一人が泡を吹いてテーブルの上に倒れこむ。




「松田君萩原君警察!!」
「俺らが警察だ」
「俺らが警察です」




そう言えばそうだったな、こんな時も警察手帳を懐にしまっていたらしい彼らは高らかに警察手帳を掲げてその場から動かないように指示すると、救急車に警察の手配を進めていく。

救急車の手配も無事に済んだ所でこちらに向き直りながら、あーっとかうーっとか呻きつつ頭を乱暴にかいた松田君と、かなりご立腹の様子である萩原君が事情聴取を済ませていき、容疑者が大まかにではあるが絞れたところで警察が到着した。すぐさま規制線を張って、救急車により運ばれた被害者は病院で死亡が確認したと連絡を受けたころには事件が終わってるという不思議な現象。もはや苦笑いが止まらないし、現役警察の二人があり得ないものを見るかのような眼差しに私は黙って頷いた。

お店側としてもお金を返すべきか返さないべきか悩んでいるし、そもそも殺人事件が起きる前提で店を開いているところなんてあるわけがないのだ。そういえば昔、店で人が死んだのにそれすらをもネタにしたラーメン店あったな。よく考えたらアレは非常識では?事情を知った人間が見たら苦笑するかドン引くか怒り狂う気がする、どうして人が亡くなってるのに店の名前に洒落た風で入れれたのかいまいちわからない。メンマだったかエンマだったかがおいしいラーメン屋らしいけど私なら行きたくない。言い方悪いけど曰く付きだよその店。




「この店には悪いけれど、二度とこないな」
「俺も」
「私もね…」
「殺人起きてますもんね」




死神ある所に事件あり、か。

メモしておこうかなぁ、いつかネタにできそう






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