何のために塩対応してると思っているんですか? | ナノ


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「えー、被害者は武田 英二さん。武田書店の取引役で、武田書店会長の息子さんですね。年は40歳。他者に対して少々度が過ぎる物言いをしいたとの報告があります。死亡推定時刻は13時30分前後ですね。第一発見者はこちらの方です」




年若い、よくアニメで見た刑事が書類を読み上げた。それを規制線の張った中で聞きながらそっとため息をつく。本当に、死んでからも他人迷惑をかけるのが得意な方だ。
しかも容疑者として現場に連れてこられたのだからあまりいい気持ではない。


また、勿論第一発見者である後輩Bも一緒だったりするのだが、先ほどから後ろで「僕トイレに行きたい~」とい声に少しだけイラついた。




「警部、コナン君が…」
「うぅむ、どうするかね。しかし」
「迷う理由ありますか?というか何迷ってるんですかアナタ」




思わず口を挟めば、他の容疑者からも野次馬からも警察からも驚いたような目を向けられた

そして確かに刑事が私の顔を見て思わずというように一歩引く。ええお久しぶりです。ですが私とても物申したい




「まさかとは思いますけど、その子供がトイレに行きたいと駄々を捏ねたから、まさか、本当にまさかとは思いますけどこの規制線の中にいれるか入れないかを悩んでおられたり、しませんよね?トイレならこの先、こどもの足で走って五分もしないところにありますが。ええ、本当に悩んでおられたり、しませんよね?」




にっこりと、しっかり2,3回同じ言葉を繰り返せば彼らの顔が罰の悪そうに歪む。


思ってたのかお前ら。あり得ねぇ


思わず外面を付けることすら忘れてスンと表情を落としてしまう。ごめん、被ってるネコが逃げた。




「あはは〜、僕分からなくって。ごめんなさぁい」




えへへとかわいらしく言ってはいるが、私から見たらあんまり可愛らしくない言えることは一つ。反省してとだけだ。それに探偵が居なくても事件は解決する。この世界の常識がソレを許さなかったとしても、科学上理論上は十分解決できるだけのポテンシャルを警察は持っている。10年20年かかったとしてもだ。もう事件から何年ったったら時効なんてものは存在しないのだから。

探偵が事件に口を挟むなんて野暮。



だけど、そんな私の思いもむなしく事件は解決されていくのだろう。しょうがないと言えばいいのか、しょうがないと割り切ればいいのか。それがこの世界だと認めてしまえばそれは負けだろう。いや、この世界の主要人物と関わってる時点で負けなのかもしれない。

この主人公の前で事件が起こればそれは解決されるべきだと決まっているかのような光景で胸糞が悪い。

ああ、嫌いじゃなかったよ主人公。

小さくつぶやく言葉に後輩Bが「せんぱい?」とどこか不安そうに私を見つめた

そんな雰囲気を壊すように警部が咳を一つだけ零して私たち容疑者に目を向ける




「えー、では皆さんその時間帯に何をしていたのかとお名前を伺ってもいいですか」




その視線が私の横、つまり後輩に向けば、彼は戸惑うように口を開く




「えっと、俺は…緑川、緑川唯です。職業は(自宅)警備員をしていて。今回は小中高の先輩でもある佐川先生の付き人としてここに。男子トイレには普通に排泄行為をするために来たんですけど…」
「ふむ、発見した当初に警察医療機関の後、真っ先に佐川さんに連絡したのは?」
「別におかしいことじゃないと思いますけど、単純に先輩が主催者側で、俺を雇う形でここにつれてきたからですよ。報連相は大事でしょう」
「わかりました」




此方も仕事柄、本人の口からきかなくてはと、すまなさそうに微笑んだ高木刑事に後輩がお疲れ様ですと頭を下げる。というかなんでお前、偽名使った。とりあえず私の番なのかコレ




「佐川沙紀、職業は小説家です。その時間帯は他の業者に編集者の者とあいさつ回りをしていました。そこの緑川も一緒に。確かめていただければわかると思いますが」
「はい、ありがとうございます、すみません被害者との関係は」
「あまり良くはなかったですよ。態度の大きな方ですし、すぐにマウントを取りたがるので。まあ、殺すほど嫌いではなかったですね。嫌な方ならそちらの書店に小説を流さなければいいだけですし」
「わかりました」




そう言って頭を下げてから他の人たちに事情を聴きに行く刑事を眺めた。どうやら私たちを含めた容疑者は5名。どれも見知った顔であるから気まずい。この中の誰が犯人であっても気まずい


一人目は絵師の斎藤清正さん私の小説に絵を付けてくれる方で。他にも多くの作品を受け持っている
二人目は担当の橋本義信さん。新人の頃からお世話になっている方で、被害者とほぼ同じ時間帯にトイレに向かった人だ
三人目は武田英作さん、被害者の英二さんとは双子の兄弟らしいがあまり似ていなくて、ひどく気弱な方だった気がする


事情聴取が終わったときに酷く満足げに頷く少年に、思わず嫌な顔をしてしまった君いつの間に規制線に入ってきたの
もうツッコミを入れる気力すらなく、死んだような目で見てしまった。ほんとに懲りないなこの主人公


プシュッと短めの音が私の耳に入り、続いて鈴木財閥の令嬢は倒れたのを目にして頭を抑えた

私知ってるアレ薬物乱用っていうんだ。立派な犯罪ですありがとうございます。誰かあの少年の腕時計取って鑑識に回せ今すぐに!!




「私、犯人分かってしまいました」
「な、なに!?」




どうしてくれようこの茶番
崩れるように眠る財閥の少女に集まる目線。言わずもなが私もその一人だ




「ええ、こんなの単純なことにすぎません。おそらくですが、犯人と被害者は元々仲が悪くて、言い争いをしていたのではないでしょうか。そして犯人が謝って刃物のついたものを振り回してしまった。ですが恐らくまだ捨ててはいない」




凶器は折り畳み式のカッターのようなものですね

そう断言する彼女になぜ誰も突っ込まないのか。お前傷口見たのかよと。
進んでいく推理に、もったいぶっていた彼女はようやく犯人を示した




「そう、この犯行はあなたにしかできないんですよ。武田英作さん。あなたにしか」




断言された彼に高木刑事が断りを入れてポケットに手を突っ込むが凶器は見つからない。しかし、逃げようとしてもがいた彼の靴が外れそこから淡い桃色のケースに入った折り畳み式のナイフが顔を出す
そのナイフが乾いた音を立てて地面に落ちたとき、彼は足元から地面に崩れ落ちた




「殺すつもりはなかったんだ。あの男が、あの男が佐川先生に手を出そうとしなければ」
「それは、どういう意味ですか」




ココで私に話題が来るのか嘘だろ神様。恐怖と嫌悪感で固まる私の前で出て、後輩が問いただすように声をだす。ありがとう後輩。今だけお前に惚れそうだ




「あの男は、佐川先生が気に入らないからとホテルに連れ込むようなことを俺に話して、協力を持ちかけた、それが赦せなくて、俺は、ほんの少し脅してやめさせる予定だったのに、アイツが暴れて、手元が狂って…!アイツ、アイツ…!佐川先生に飽きたらくれてやるから、手伝えって、俺はそれは許せなくて許せなくてっ…!」




私のためといえども人殺しの理由にしないでほしいと思うのはいけないことだろうか。




「なぜあなたが佐川さんのために…?」




刑事さんが訪ねるそれに対して武田さんはすすり泣きながら小さく答えた




「彼女の書く作品に、俺は救われたんです。『小さな花と種』。人生のどん底に居た俺に生きる希望をくれた。それ以降彼女の書く作品はライトノベル以外すべて読んだだからこそ、許せなくて、こんな作品を書く彼女をつぶそうとするアイツが赦せなくて」




それ以降、泣いて動かなくなった武田さんは連行されていった。




「……先輩。俺は、アイツに、あの殺人を犯した男に感謝しなければいけないかもしれないです」
「あまり殺人を肯定したくはないけれど聞いてあげる。どうして?」




元々警察官だった男に問いかける




「命の恩人を危険か救ってくれた彼に、感謝しない理由はないですよ。それが、褒められた形じゃないとしても」




何処か達観した目に、私は「そう」と返す。
それしか返せない

少なくとも私もきっと彼に感謝してしまっている部分があったのかもしれない

そう思いながら会場に戻った




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