それは愛の人だった | ナノ


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主人公サイド



いつの間にか私は一人の女の子とニコイチのような存在になっていた。
その子の名前はマシュ・キリエライト。薄い紫色の髪が似合う、笑顔の控えめな可愛い少女

私の可愛い、大事な半身。

元々私は一般企業に勤める普通のOLだった。働き先が普通のブラックだったとも付け加えるべきか、死因なんて笑えるほどつまらない。所詮過労死。私について語ることなんてそれくらいだ。


そう、私が話したいのはマシュという少女の物語。まあ、私が話せる内容なんて彼女が必死に駆け抜けた一年と、幼少期の、あの地獄のような日々だけだ。


私が彼女に出会った時、彼女はまだ五歳前後だったように思う。いつも、空気は味気のない、人の目ばかりをそこら中に感じる趣味の悪い白い部屋に、私と彼女は閉じ込められていた。ああ、今思い出しても恨めしく片腹痛いとも。彼女が私を認知できるのは人目のないわずかな時間。話しかけることが出来るのもその時間だけ。すこしでも人の目があるとそれはダメだ。会話の途中でもプッツリ切れる
彼女が私を視覚出来るのは夢の中だけ。夢の中だけ、私たちは顔を合わせ声を交わし、そして互いの体温を感じることが出来た

それだけで十分だったのだが、私は彼女には話していないある能力を持っていた。それはマシュというごく狭い括りの中だけに限り、彼女に関する情報が頭の中に流れてくる

特異なことだ。けれど私はこの能力を重宝したこの能力があれば彼女を守ることが出来るのだから安いモノだろう。

だからあの日も地獄なような痛みをマシュに味合わせることがなくてよかった。
そして、あの高潔な英霊がマシュをクイモノにしないと誓いを立ててくれて心底安心したことを今でも覚えている

まあ、それから二年ほど、死んだように眠ったわけだが、そんなこと些細なことにすぎない。
目が覚めれば彼女は優男風の男と会話をしていた

信じるのかと問いかけた気がする。

そこからは流れるように時間が過ぎて、彼女は私が目覚めてから四年後に特異点と呼ばれる数多の冒険を繰り広げる。初めての戦闘では情けなくも腕や足が震えていた、だから何度か変わったのだ、私がやるから少し見ててと

ああ、懐かしい、なんだかんだ言いながら、私もあのマスターと共にかけたな。きっとあのマスターは気づかなかっただろう。そして、マシュさえも。震える彼女の腕を取って引き留めたかった。震える彼女に何度も逃げていいとささやいた。けれどマシュは意志が固くて、強くて「まだ、先輩に恩を返せていないから」と何度も何度も一人で呟いて。なんかいもなんかいも心配する私にあのマスターの口癖でもあった「なんでもない」を繰り返した




「そんな、安い言葉を立ち続ける動機にするくらいなら、逃げていいのに。私が、私がやるよ。ねえ、マシュ」
「いいえ、私、私は、私の力であの人に、先輩に恩をかえしたいの。私が自分の手で」




自分の寝室で怖くて、震えていたくせに。
そう思うたびに都合のいい夢を見る。

マシュと私と、かつてのカルデアのメンバーと笑いあう、そして彼女が、マシュがあのマスターとお茶をする、とても幸せで、泣き出してしまいそうな夢。ああ。きっと叶わないと分かってるのに。なんて、泣きそうになるほどきれいな夢だろう。

でもマシュはこの夢をきっと否定する。この、幸せで、綺麗な夢を、ならば私も否定しよう。
あの子が覚悟を決めたとき、私はあの子と消失できるならそれでいいと自分に言い聞かせる




特異点F「炎上汚染都市 冬木」

第一特異点「邪竜百年戦争 オルレアン」

第二特異点「永続狂気帝国 セプテム」

第三特異点「封鎖終局四海 オケアノス」

第四特異点「死界魔霧都市(ミストシティ) ロンドン」

第五特異点「北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム」

第六特異点「神聖円卓領域 キャメロット」

第七特異点「絶対魔獣戦線 バビロニア」




そして、終局特異点「冠位時間神殿ソロモン」

沢山の特異点を回った。ここをクリアしてしまえばマシュとあのマスターは笑いあえるのだろうか。
そうだ、あの子とマスターであるあの人が笑いあえる未来。きっと素敵だろう。あの夢のように、きっと、綺麗だろう。

だけど、きっとこの戦いは激化するのだろう。ねえ、マシュ。私はあなたが決めたことを否定しない。だけど。だけどね。もしもあなたが消えてしまうとき、わたしも、一緒に連れて行って。

もうあなたの身体はボロボロだ。それなのに、マスターのために戦うあなたに、私は…どうしようもない無力感に苛まれるんだ。ひどい半身だと思うかな。思ってくれてもいいよ。だって私が大事なのはマシュだもの。ねえ、ソロモンの手を取っちゃおうよ。ゲーティアの手を取っちゃおうよ。きっとあなたは否定するけれど。私はね、どんなに幸せで綺麗な未来より、マシュが生きながらえる未来のほうがいいんだ。



ゲーティアと呼ばれた男が暴力というにふさわしいほどの魔力を放つ。




駆けだした私の、マシュの足に、私はそっと笑った。そう、やっぱりあなたは…




「ごめんなさい。私。だけど、私は、先輩に、恩を返したいの」
「そう、それが貴方の望む結末なら私は頷こう。ねえ、マシュ」
「はい」
「私はね、…ううん。行こう、マシュ、先輩の道を開こうか。この攻撃は、魔力は私とマシュが一丸にならないと止められないよ。」
「…はい」
「不安?」
「……はい」
「ねえ、この魔力の密集体を前にして、マシュは怖い?負けちゃう?」
「怖いです。もちろん、でも、だけどっ、先輩に恩を返すためなら、こんなのっ!」
「なら、大丈夫だよ。ほら、私じゃ力不足だろうけど、側にいるからさ」




行こうか、マシュ




「ええ、いきましょう、私」









「「其れは全ての疵、すべての怨恨を癒す我らが故郷――顕現せよ、『いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)』!!!」」




盾を突き刺す、いつもより強く強く、消して倒れることなど無いように。ああ、きっと負けはしない。けれど、口から溢れ出すのは悲鳴のようにか細い声だ。だけど、負けられないんだ。あの子のために




「「あああああああああああああっ!!!」」




あの子は、きっと初めて恋をしたマスターのために、恩人のために。ならさ、私が頑張るのはきっと、当たり前なんだよ。




「良かった、これなら何とかなりそうです」




あの子からの最後の言葉、受け取りなよ。マスター(先輩)私はこの盾が倒れないように力を振り絞ろう


身体から煙が立ち上がる

だけど、だけど。この盾から先はだって、この子が視てる未来は一つだけだ。この子が見据えているのは一つだけ。この子は永遠なんて少しも欲しがっていない。前提からきっと間違えだったんだよ。


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