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さて、そんな奇妙な思い出はガッシュと別れ、イギリス観光に精を出したコナンの記憶には残っていなかった。人間そんなものである。
だからこそ再会した日にはショックの記憶とともにフラッシュバックが強烈だ。
いつも通り少年探偵団と帰宅し、ポアロで安室さんと話していた時にそれは起った。
「清麿の匂いがするのだ―!!」
勢いよくベルを鳴らして入ってきた金髪の髪とその服に激しく疑似感を覚えた瞬間に彼は思い出した。ガッシュという子供のことを、そういえばまだ工藤新一だった時、ガッシュという名前を聞いたことがあるという事実を、今思い出した。
オレンジジュースの入るグラスを片手に固まるコナンに安室は不思議そうな顔をして見せて、小さな来客に笑みを見せる
「いらっしゃいませ、お父さんとお母さんはいるかな?」
「父上も母上もいないのだ」
「………」
何でもない笑顔で言われる壮絶な内容。その内容をケロリとした顔で話す(実際ここにはいない)あどけない少年に安室こと降谷のSAN値がごっそり削られた。少子高齢化のある日本において子供とは至高の宝である。そんな子供が……
「安室さん待つんだ!きっと解釈違いだよ!えっと、ガッシュ君、小さいころの思い出とか」
「一人だったの」
もうだめだ。
というか小さいころの思い出って今が十分小さい
涙を流し始めた安室さんは一体何轍目なのか考えたくもない。
「これこれガッシュ君。いきなり走り出すなんて、この老体に無理を、何だねこの状況は」
「ナゾナゾ博士―、僕ケーキが食べたいや」
続いてベルが鳴って、現れた珍妙な格好をした男は店内の様子を目に入れて困惑したと言わんばかりに目を瞬かせる。一緒についてきたであろう子供に至ってはおねだりをしていてマイペースだ。
「うぬぅ、何故かの、父上と母上の存在を聞かれて答えて泣かれたのだ」
「…なるほどね、きっと彼は心優しいんだろう。」
「ガッシュー、お前が清麿の匂いがするーって言ってここに入ったのに清麿の奴いないぞ」
「でも確かに清麿の匂いがしたのだ」
なぜかの?と首を傾ける子供に、ようやく復活したのか安室が立ち上がって、口を開いた
「清麿君ならここでバイトしてますからね。でも、臭うほどですか?」
「なるほど、あの清麿君がバイトね。そんなこと一言も言っていなかったというのに」
「ご家族の方ですか?」
「私は違うよ、ガッシュ君にとってはわからないがね。あとこの子は鼻がいいんだ。」
なるほど、と安室の仮面をかぶった降谷が見える。
きっと彼らを調べるのだろう。
注文を取る安室に注文を述べる彼らに手を合わせた時だ、ガタリとガッシュが立ち上がる
「ガッシュ君?」
「清麿の匂いがするのだ」
「おいおい、またかよ」
「違うのだ!今はハッキリと、近くにいるのだ、清麿が近くに…!」
そう言えば今日シフト入ってたな彼、そんなことを思い出した安室は涙すら浮かべるガッシュを見つめて笑った。
そして
「こんにちはー、安室さん、買い物に行くものとかないですか?」
「こんにちは清麿君。あと、お客さんが」
「清麿ぉぉぉぉぉおおおおおおお!!」
「え…」
来てるよと言おうとして風が舞った。
耳元でヒュンと短い音が響いたと思ったら、清麿の声がしたほうからえげつない音が響く
簡素に述べるならガッシュが清麿の腹部へと勢いよく飛びつき、いつもの彼からは想像できないほどの表情で頭から倒れこむのだから、思わず駆け寄ってしまった。けれど飛びついた子供は嬉しそうに笑って彼から離れないと言わんばかりに抱き着いていて…、何故だか何も言えなかった
「清麿!本物の清麿なのだ!清麿〜〜〜!」
「え、な、ガッシュ!?」
「ウヌ!」
にっこりと笑って見せたその子は、その子の顔は泣いていた
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