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「ねえ、香、人ってなんで争い、殺し合い、略奪し合うんだろうね」
「―――マーリン?」




つまらないと言わんばかりにその瞳に全くの色を乗せず、美しい青年へと成長した男は、私に同意を求めるかのように呟いた。そのくせ、同意を求める割にはこちらを見ようともせず、ただただ虚空を眺めるその瞳には何を映しているのだろうか。

どこか遠い地の戦争か
はてはただの小競り合いか

少なくとも彼の中で完結している話題なのは確かで、意見を求める割に答えはすでに決まっていると言わんばかりに無表情




「パンドラの箱って聞いたことある?」
「パンドラ…?」
「そう、マーリンからしたら遠い昔の話だけれど、人類初めて誕生したと言われる女性がとある男に授けられ初めて誕生した女性は神々からの贈り物と表して一つの箱を与えられた、それがパンドラの箱。このパンドラの箱を開けてはいけないよと神々は彼女に言ったけれど、彼女は夫―――、授けられた男がいないうちに開けてしまうんだ。するとどういうことかその箱の中からは負の感情があふれ出し、あたり一面を覆う。彼女は慌てて箱を占めたけれどもう手遅れで、彼女の周りの人間たちは醜い感情をあらわにし、争いを始めてしまった」




って話、




「まあ、人間がこんなくだらないことをするのはパンドラの箱を開け放ち、負の感情が下界に満ち溢れたから、っていう話だね」




座っていた椅子から立ち上がり、生い茂る木々を見つめる



「ふーん、でもね香、その女性は開けてはいけないと言われたのにその箱を開けた、もうこの時点ですでに負の感情はあったんだよ」
「だろううね、彼女が持ち合わせてしまったのは欲だ。好奇心ともいえる」
「つまり、最初から人間は欲を持ち合わせていた、箱を開けてこぼれだした負はただのカギに過ぎなかったんだよ」




遅かれ早かれこうなるのはもはや必然だった

ふっと光を消したマーリンは暗闇の中で私に笑いかける




「香も、−−−人間だ」
「そうだね」
「でも、君を侮辱したわけじゃない」
「うん」
「…ごめん」
「おこってないよ」




バツが悪そうに眼を背けるマーリンに笑って見せながら、私はかすかに嫌な予感を覚える。

…マーリンが言うことはもっともだ。むしろ彼からすれば、なんで?どうして?と疑問に持つのが当たり前。

だけどなぜだろうか、きっといつか、この問いかけを後悔する日が来る気がする




「時間だ」
「――ッ、うん、そうか、香、またね」




その言葉を耳が拾ったと同時に私は私を呼ぶ声に目を覚ました




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bkm






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