「第一次世界大戦時に暗躍したと言われる有名な女スパイにマタ・ハリという人物が存在するんだけど、彼女が本当にスパイだったかという点においては今なお議論されているんですよ。マタ・ハリの写真はP256、彼女がフランス、ドイツ両国の二重スパイだったとして1917年に銃殺刑にーーー」
何気ない世界史の授業。
わずか八人ばかりしかいない世界史選択者達がノートをとる中で私はページをめくった手を止めて固まった。
白黒写真の中。シーツに身を委ねてこちらを見つめる美しい女性。周りに置かれているのはおそらく宝石だろう。いや、そのことはどうでもいい。ただ
「そっか、そりゃあ、あえない、よね。うん」
顔は怖いほどにこわばっていて、あまりよろしくない心象で写っていたんだろう
いくつも残ったといわれるマタ・ハリの写真のうちの一つ。
こぼれそうになった涙をごまかすように拭いて、私は写真をページで隠した