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「まったく!香は何でそうやって変な輩をひっかけてくるのかなぁ!?」
「ひっかけたか。やっぱり引っ掛かったか。ちなみにどっちよ」
「教えない!」




プンと小さかった姿からようやく十代半ばまで成長したマーリンが頬を膨らませて顔をそらせる。
小さかった頃は庇護欲をそそる容姿だったが、今ではもう、色香すら漂う容姿だ。今はまだ線が細く、色的に儚いからか香にはまだまだ子供に見えてしまっていた。顔を背けながらも、おとなしく紅茶を用意する彼は存外めんどくさいというか、真面目というか。

それにしても引っ掛かったのが、誰なのかが気になる。

香は頬杖をついて、マーリンが歩いてくるたびに咲いては散り、咲いては舞う花々を目で追いながら考えた。多分メイヴは間違いなく保護欲的なメーターで引っ掛かってる。
だけど保護欲のメーターならマーリンもここまで頬を膨らませて怒りはしないだろう。ならば残るのは一人だ。




「…マーリン」
「私は怒っているからね!香の声は聞こえていません!」
「撫でてあげよう」
「何かな!!?」




この子チョロいわと心の声すら聞こえてきそうな香の笑顔に、だまされたのかとマーリンは眉を寄せる、けれど椅子を下げてちょいちょいと手で来るように合図される、ということは普通に撫でる気はあるのだろう。紅茶に砂糖をいくつか入れてかきまわし、手に持つと歩いてそちらに向かう。紅茶を机に置いてから、椅子に座ったまま見上げる彼女がやはり楽しそうに笑うのが癪に障るし、気恥ずかしい。




「ここに頭」
「〜〜〜っ!!」




まさに愉悦。

そんな言葉が聞こえてきそうなほどいい笑顔で、自らの膝を叩く彼女の言わんとしていることが分かった。けれど割とこの姿に成長してから頭を撫でてもらうのも、ましてや膝枕なんて本当にレアなのだ。甘えようと近づいても笑顔で「そろそろ大人になろうね?」と言われてしまう。…けれど理性というかプライドが大人しく甘えることを許さない。だけどこれを逃せば次の機会がいつ回ってくるのかもわからない。かなり雁字搦めである。
戸惑い、迷い、葛藤しすぎて涙目になり始めたマーリンの姿に香はますます笑顔を深めた。




「〜〜〜っ、うぅ〜〜…!」
「よーしよし。いい子だね」
「悔しぃいいいい…!」




結局欲望には抗えず、おとなしく地べたにぺたりと座り込み顎を香の膝へと乗せ、そのまま頬を擦り付ければ優しい手つきで頭を撫でられる。それに歓喜と安堵と満足感を感じてる時点でマーリンは敗北。香は完全S勝利である。
彼女と親しいサーヴァントが見たならば血の涙を流し、歯を食いしばる程にはうらやましい光景だろう。未来のマスターは割と何時でもやってもらえるので拗ねはしても悔しがることはないだろうが…。




「それで?誰が引っ掛かった?何となく予想はできているんだけど」
「…ケルトの猛犬だよ。というか…彼の夢って割と正直だよね」
「夢…?」
「あーー!香は見ちゃダメ!」




頭を撫でられながら問われた内容に答えを返す。
そうしながら一つの夢を弄る様に撫でて揺らせばその夢を見ようとした香に待ったをかけた。
こんなおぞましい夢を、男の欲望をふんだんに盛り込んだような夢を大切な姉貴分に見せるなんてとんでもない。彼もよく一日会っただけの彼女にこれほどまで欲情できるものだなと感心してしまう。実際に行動に移したら問答無用で潰すが。
不満そうに、少しムッとしたのか彼女はマーリンの頬を軽く摘まんだ




「…どんな夢だったの」
「んー。彼の欲望が詰まった夢、かな?」
「…ってことは私の結界を壊してフルボッコにする夢か…」
「……そうだね」




正解は結界を破壊してそのまま事に及び、妻にして子沢山な夢だったが、いろんな意味でこちらもフルボッコ、夢の中の香も精神的にも肉体的にもフルボッコ(意味深)だったので肯定しておく。…嘘はついていない。
罪悪感を抱えつつも思う存分甘やかしてもらいながらマーリンはふむと声を漏らした。
取り合えずこの姉貴分は守らなければという気持ちが湧いたのもある。

さて、どうするべきか



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bkm






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