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惹かれたのはその瞳だった。女王メイヴの腹心、最高位の魔術の使い手。
容姿は自分が今まで惹かれ、欲情し、夜を共にした極上の女たちに比べたら天と地ほどまでとは言わないが、ある程度、差がある容姿だろう。けれど、どの女たちとも違う。
自分が知っている女は一部を除いて戦場には立たない。顔に傷を作り、最前線で味方の手入れと指揮をこなして、部下に慕われている女なんて、自分は見たことがなかった。




「前衛っ!撤退!!」
「…惜しいねぇ。もっと見てみたいぜ。コノートの軍師様よぉ!」
「っ、こっちには病人が、怪我人が居る。治療の邪魔させるわけにはいかないんだよ。クランの猛犬!おとなしくお座りと待てをしてなさい。」




得物である槍を構えて地を蹴る。
そして、最前線で、共もつけずに、ただひたすら指示を飛ばして傷を癒す一人の女の元へと駆けた。邪魔するコノートの兵士を蹴散らして、ただ一人の元へと。もっと見てみたかったのだ。彼女が戦う様を。願うなら。自分の隣でと。

けれど自分の冷静な部分は彼女を崩せば戦場は一気にこちらに有利になるとささやきかける。それはすなわち理性と本能の利害の一致だったともいえるだろう。




「軍師様お下がりください!」
「メイヴが戦場にいる以上、防衛ラインである私が下がるなんてできないよね。なら、迎え撃つよ」
「軍師様っ!」
「いいねえ!その威勢、好みだ!」


振るわれた槍先を怯えすら見せぬ瞳でまっすぐと見据える。
ケルト人ではあり得ない黒にも光によってはこげ茶にも見える瞳に自分が写っていると認識した瞬間、言いようもない高揚感が体全体を駆け巡るのだ。ゾクゾクとした悦。それはいっそのこと快楽といっても差し支えない。

ーーーああ、これはたまらねえな

ただ視界に入れられただけで欲情も高揚感も独占欲も生まれる。俗にいう一目惚れとはこの事だろう。欲しい欲しいと全身で本能で彼女を欲した。敵であることも忘れて、ただ触れることだけを求めた。けれど。その槍は何か見えない壁に阻まれる




「さあ、クー・フーリン。私に触れられる?その槍で、この体に傷つけられるかな…?
貴方が思う存分、先ほど君がいた場所で暴れてくれたから結界を張るのが楽だったよ」
「―――へえ、俺に、敵の俺に陽動をさせたわけだ…!」




目の前に餌がある
それなのに触れることすらままならない。
近づくとこさえ叶わない。わざわざ自身の肌をさらして誘う獲物は楽しそうに微笑んだ




「おうちに帰る時間じゃないかな?ワンちゃんは」


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bkm






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