「もぶ子!もぶ子!…あぁ、よかった目を覚ましたのですね」
遅咲きの花のように可憐な顔を悲しみに彩っていた顔が安堵と喜びに変わる
褐色の肌はいつもより青ざめていたようで、彼女は泣きながら怒る
とても器用なことをするものだと感じながら顔を上げた
「ニトクリス…」
「急に倒れたから、私は、心配したんですよ…!」
不敬です不敬です!
そう言いながら幼い友人はまた泣き出してしまった
泣かせたいわけじゃないのに、そっと彼女の瞳から溢れる涙を控えていた侍女から貰った布で吸い上げる
最初は自分に対して警戒心しかなかったのに、よくここまで懐かれたものだと感心する。
いきなり王宮に現れた不審者でしかなかったであろう私は、その時の王がいい感じに酔っていたこともあり極刑には処されず、彼女の御守を仕った。
自分としては助かったと思う反面、この国は大丈夫かと心配してしまう
「もぶ子!聞いているのですか!!不敬ですよ!極刑です!死刑ですっ!!」
「え?私刑?」
「馬鹿にしているのですかっ!?」
あらぬ方向を向き物事を考えていた私に友人の叱責が飛ぶ
ポカポカと私の胸元を殴りながら彼女はプンすかと怒りながら「もう知りません!」と拗ねて横を向く
近くにいた侍女たちがほほえましげにくすくすと笑いながら私にそっと水が入った樽を差し出した
そして柔らかな布を持った侍女が私の枕元に控える
王族でもない私がこんな扱いでいいのかと思うことはあれど気にしたら負けだ
「〜〜〜〜いいですか!もぶ子は罰として今日は私と寝るんですよ!」
「ご褒美かな?」
「罰だと言ってるでしょう!!」
フシャ―!とまるで猫のように起こる彼女の髪を撫でれば瞬時に顔を赤く染め上げる
うんうん可愛い可愛い。
子供はやはりこれくらいじゃなきゃね。笑って怒って泣いて、喜怒哀楽が子供なわけだし
その夜は枕と侍女を引き連れて部屋を訪れた彼女に昔話をしてあげる
小さく腕に収まる彼女の頭を撫でながら紡ぐように話せばウトウトと眠そうだ
「ニト、もう寝る?」
「いいえ、まだねません…わたしは、おにいさまのいもうととしてここではけして、くっしません」
「既に眠そうだよニト」
ガクンガクンと揺れる首が怖い
というか彼女は本当に自分の兄が大好きだ
まだまだ甘いところもある彼女と違い割と冷徹な面も持つ兄は彼女の憧れなんだろう
それに可愛い盛りの弟もいるし。
「そっか、でも私は眠いから寝たいな、やさしいニトは叶えてくれる?」
「…しょうがないですね!…べつにもぶ子のためではありません、おうぞくとしての、つとめ、で、ふわぁぁぁあ…」
よし、かかった
私はそのまま彼女をベットに引き込み侍女に腕を上げて下がるように合図する
彼女は何かを話したそうにしていたけれど眠気に負けて寝てしまった
うんうん、子供はこれくらい自分の身体に正直じゃなきゃね。さて、私も寝ようか
「おやすみなさい、いい夢を」