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ふんわりと香る甘いにおいに促されて瞼を持ち上げる
一面に咲き誇る四季折々の花達。
美しい花園の中にぽつりと姿を現す塔はかの青年を閉じ込める牢獄だった
いや、牢獄とはいえ青年(と呼んでいいのかわからないが)にはあまり効果が無いようではあるが

そう思いながら杖を抱きしめ藤村 香は一歩踏み出した
途端に花々が勢いよく咲き誇り、風が舞えば花弁が躍り藤村から一定の距離を保つ所で渦を巻く。その中央から出てくるのは神々しいほどに美しい顔(かんばせ)を喜びにあふれさせた青年だった



「お久しぶりだね、香!」
「私の中では10年ぶりくらいだよ、マーリン」



当たり前と言わんばかりに香を抱き上げて青年、マーリンは顔をほころばせる。
彼との付き合いは長い。それこそ、二回目の過去にとんだ時から付き合いで、現実でも飛ばされた時の夢の中でも数回に一回は姿を現す

最初の頃は良かった、なぜならまだ彼が子供だったからだ。けれど年月が立つうちに彼は青年へと姿を変えた。

夢の中での逢瀬は悪くないと彼は言う

そして何十回目の過去に行った時だっただろうか。英国英雄物語。アーサー王の伝説に飛ばされた際に現実でも会合を果たすが、不思議なことに彼は夢で逢う彼よりも表情が乏しかった。会合を果たしたときに揺れた瞳と動揺したような声は長年(とはいっても自分より圧倒的に短い時間)過ごしてきたアーサー王曰く初めて聞いたとのこと。



「さて、と。香、どうしてここに?いや、私としては勿論うれしいさ。なんせこの私が家族のように愛情を持ってる君が来たんだ。だけど、<眠りし封刻>を使った理由が分からない」



再会を喜ぶ前に彼は一発で香が自分自身にかけたソレを見破ると顔をしかめた
まぁ、確かに褒められるべき魔法ではない。けれど
だけど自分は彼に聞きたいことがある



「最近夢の中に出てこなかったけど、何かあった?」



首を傾げながら彼の瞳を見つめて言葉をつむげば、次の瞬間彼は頬を膨らませて香の首筋に頭をこすりつけると不満そうに口を開いた



「そうなんだ、聞いておくれ香。君が今、お世話になっている魔術の王」
「…ソロモン?」



なぜそこでソロモンが出てくるのだろうか。
不思議そうに眉をしかめる彼女にマーリンは一人頷いて見せる



「そうさ!彼はね、この私が君の夢の中に入るのを邪魔したんだよ!まったく。許されない暴行だ」



まぁ、何回か干渉しようと試みたんだけど全部失敗してしまった。

そして、最後の干渉が私の結界破壊であったと。いや、過激だなコイツ…

思いっきり呆れたような表情を香は作って見せるとマーリンは不服そうに唇を尖らせる



「君にとってはどうでもいい事かもしれないけれど私にとってはどうでもいいことじゃないんだ」
「何も言ってないけど」
「目は口ほどにモノを言うんだろう?」



昔,教えたことわざをしっかりと覚えていたらしい彼は得意げに言い返す
しかし次の瞬間にはその美貌を歪めると苦々しくも舌打ちを一つ



「迎えか、早いな…。あ。そうだ、はい、コレ」
「なにこれ」



手渡されたのは可愛らしくも桜の形をした石だ
桃色をベースとして細い線が角度によって移動する
それを光にかざしたときだったか、急に後方に引っ張られる感覚に思わず声を上げた香を穏やかな表情で笑う花の魔術師は軽く手を振った



「大丈夫、すぐに現代に戻れるよ。だから【またね】」



落ちていく感覚に手をのばしたがそれはあたり一面が眩しく光り輝くとともに収束し、そして一気に現実に引き戻される
それはいうなれば過去から戻ってきたばかりの感覚に似ていた

うっすらと重い瞼を開け、右手に感じる暖かさ



「あれ…?」



現代じゃない?


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bkm






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