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プロローグ
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今日も仕事だと、重い体を動かして駅へと向かう
何が悲しくて自分で選んだ仕事に文句を着けなくちゃいけなくなったのか
上司も上司だ。自分の患者がうまくいかないからと部下に八つ当たりなんて

高校時代は少し不思議なこともあって、今もたまに続いてるけど、あのころが一番楽しかった
楽しかったのに

知らずと鞄を握る手に力を込める

仕事かとため息をつく

だから油断していたんだと言えばそこまでで、雨に濡れた階段に足を滑らせた
そして何の偶然か、そのタイミングで人理修復が始まったのだろう。

階段を上る人、走っていたはずの車、空を飛ぶ鳥。すべてが静止画のように動きを止めた


――――私以外が


重力に逆らい落ちるからだ。
横に居たサラリーマンの男性が驚いた表情のまま固まっているのが目に見えて少し笑ってしまう。

次に来たのは強い衝撃
不思議と痛くはなかった。ただ、あんまりにもあっけなくて笑って、泣いてしまう
薄れる意識も、気にならない
心残りなのは弟分と可愛がっていた彼や早く婿でも見つけてこいと笑っていた両親の顔。

ごめんなさい。子供は私一人だから、父さんと母さんから孫を見る将来を奪ってしまった。

涙が頬を伝い目を閉じる。私は死ぬんだと納得して、



―――だから本当に予想外だったんだ


自分が英霊のみに許された座に招かれたことが。
不思議と理解できたその場所は、座と呼ぶにふさわしくは…ないもので
私が生まれ育った街そのものだった

さっきと違うのはきちんと自動車も人も動物も動いていることだろう。
変わらない街の風景。変わらない実家。だけどそこに両親はいない。そこに弟分はいない。

座に召し上げられた反動で自然にできた私の国だった
再現されたのは私が退屈しないために作られたステージで、そこに楽しみなんてない
友人も、両親も、弟分もいない、生きているように見える人はただの幻覚。
自分が借りているアパートの扉を開ければいつも通りの部屋

見慣れない扉がつけられた部屋には嫌にも立派な椅子が中央に置かれている

これがこの町の中心
これがこの町の起源
そして私が座る椅子

乾いた笑いが漏れてしまう
こんな中身のない王国なんて、誰が喜ぶんだ

それから忘れるように仕事に打ち込んだ。いや、仕事と言う名の退屈しのぎに打ち込んだ
上司は叱らずいつもニコニコ笑っている
町の人たちは私を気にかけてくれている。私を好きだという男性もいた
だけど違う、こんなの望んでない。

こんな空しい感情なんて望んでいない

私の記憶から勝手に作られた町は勝手に私の記憶を否定する
けれど退屈しのぎはあった、私が死んだ後の世界の情報がテレビから流れるのだ
おそらく英霊が聖杯戦争で召喚されたとき不自由しなくて済むように

だから一日ずっとそれを見続けた。
そして歴史や神話を読み漁った

それが楽しかったころの思い出に浸れる幸せな時間だったから

書物も本屋に行けば新しいものが出てる。私の国だからすべて望めば手に入った
だから望めば記憶すらも消せるんじゃないかって、出来心で望んだ時、それは都合よく記憶を改ざんし、私がこの国で生きる原動力となる

親に遭わないのは仕事が忙しいから
弟と会えないのは仕事が楽しいから
上司も優しくて、人付き合いも上手くいっていて
だから、【帰らなくても問題ない】

都合のいい改ざんのおかげで私は壊れずに済んだわけだ
後悔はしてない。

そんな私が仕事に行く前、誰かに呼ばれた気がした。光があたりを包み私の身体を包んで、そして


「クラスはキャスター!マスターの命により限界しました。…お?立香くん?…ん”!?」


とても楽しそうで、暖かな何かが始まろうとしていた。

―――私の記憶はここでおしまい。これからは【私自身】が引き継いでくれるだろう
だけど、それじゃ無責任

だから私は英霊になった原因の記憶を座に残していこう

いつか還ってきた【私自身】のためにに自分のために記憶を置いて逝こう
私は耐えきれなかったけど、きっとあの私は耐えることができるはずだから











ねぇ、立香。最後に大切な弟分の顔が見れてうれしかったよ


――――誰も知らない独りぼっちだった英霊の話――――





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bkm






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