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「豊穣祭、ですか」
「はい!良ければお姉さんも一緒にどうですか?わたしはこの日のためだけに休暇をとりました!!」
「それいいの…?」




まあ、あの近藤勇なら許してくれそうな気はするけれど…

豪快に笑う懐がやけにでかい男を思い浮かべて私が笑みを浮かべると、沖田はパァッと顔を輝かせて見せる。どうやら承諾の意味で受け取ったらしいが、別に問題はないので訂正はしない




「じゃ、じゃあ待ち合わせ場所を決めましょうお姉さん!!」
「え、ああ、うん、そうだね。そうしようか」




何時のどこに集合しようか?紙を手に取り小筆を用意すれば、墨の入る小瓶を取り出て見せる。寝屋には江戸版のカレンダーがありはするけれどここにはないわけだし。

問いかけてみれば、彼女は「ふむ」と少しだけ悩んでから




「敷物屋の手前はどうでしょうか?あ、あとですねお姉さん」
「ン?敷物屋の手前ね。わかった。どうしたの沖田」




手早く和紙に書き上げて顔を上げる。そのまま沖田を見つめればどこか居心地が悪そうに目線を下げるものだから、何かあるのかと首を傾げた




「あー、実は、ですね。その、土方さんがもしかしたら…、もしかしたらですよ?一緒に来るかもしれなくって」




何故??


湧き出た疑問。それを敏感に感じ取ったらしい沖田が大げさに手を振りながら言葉を紡ぐがあまりにも早口すぎて聞き取れない。多分だが本人も今自分が何を口走っているのか正確に把握は出来ていないんじゃないだろうか心なしかだんだん目元が潤んできている。
助け船をだすべきか出さないべきか。もういっそのこと全部吐き出させたほうがいい気がしてきた




「沖田落ち着いて。そう、ゆっくりね。言いたいこと全部言っちゃっていいよ」
「~~~土方さんか合流しますっ!」
「だからなぜ」




二度目の問いかけは目をそらしながらも沖田は言い切る




「土方さんの考えている事なんてわかるわけないじゃないですか」




潔すぎて思わず手を叩いた
曇り無き眼差しすぎて感心する。そうよね他人のことなんかわからないよね
しかも常時バーサーカーみたいに話が通じないときあるからますますわからないよね。

土方さんも空気読めなさすぎですよね、と同意を求めるように沖田が私に話しかけたので、そこだけは全力で同意を示す。あのひと本当に通じないからね


…まあ、そんな話の通じない人が一緒に夏祭りの屋台巡りするとは、これってある意味拷問なのかもしれない




「一緒に来るのはいいけど、せめて羽織は下ろしてきてねって伝えてくれる?もちろん沖田もだよ」
「ええっ!!?お姉さん分かってないですねこの羽織に格好良さが!」
「仕事ないでしょ。それに、羽織で行くと屋台の人も委縮しちゃうでしょう」




一度だけ私はその現場を見たことがある。それは私が小学三年生の頃だっただろうか。加賀地と一緒に地元にある神社のお祭りに行ったときのこと、たこ焼き屋の前でネギを付けるか付けないかを迷いつつフランクフルトを頬張っている私の後ろをちょっと死にたそうな顔で通り過ぎた警察のお兄さんがいた。途端に静まり返る屋台の雰囲気。先程までニコニコとこちらをほほえましそうに眺めていたおじさん(たこ焼き)は引きつった笑顔で、横のお店を仕切っていたおばちゃん(金魚すくい)は下に目線を下げた。先程まで楽しそうに通り過ぎていた子持ちの親子は足早にその場を離れ、ちょっと涙で目を潤ませた警察官のお兄さん。彼はいったいどんな気持ちであの場を歩いていたのだろう。治安維持者は確かにその場にいるだけで安心感を生み出す。生み出すが、私の住んでい
た地域はいわゆる田舎で地域の祭りに警察が出てくるなんてことがその年で初めてだった。だからこそ起こった悲劇なのかもしれない。せめて年配の見知った交番の警察官ならもうちょっと結果は違ったであろうに。お兄さんも町の人も初対面だったのだから笑えない。ちなみにお兄さんはその数日後、交番のおまわりさんの一員になっていた(実話)




「お姉さん??またどこかに飛んでませんか??おねえさーん」
「飛んでた」
「しってました。…というかこの沖田さんもさすがにまだ羽織でお祭りなんて行ったことないですから」




まあ、この羽織はイケてると思うんですけど…

何処か不満げに唇を尖らせてひらっとその場で回る沖田に合わせ、淡い水色の羽織が腰のあたりまで舞い上がり、踊る。沖田の容姿とその色合いは妙にマッチしてしまい、まるで、消えてしまいそうだ




「―――…」




それは、ちょっと、嫌だなと思った。

沖田総司、彼女の行く末を私は知っている。きっと、きっと彼女の中では、今の彼女の中では不名誉でしかない、病死。戦場で戦わず、ただ寝かされて枯れていくそんな結末。




「――それを変えるために、私は…、私には、何ができるのだろうか 」
「お姉さん??」
「何でもない」




何でもないよとその頭を撫でて微笑んだ。胸から湧き上がるこの想いは何だったか。ひどく懐かしい。




「沖田」
「はい?」
「何か困ったことがあったら、あったのなら、頼ってね」




私ができうる限り、力になろう。




「相談にも乗るからさ」
「―――、なんだかお姉さん、急に生き生きし始めましたね」




そっちの方が素敵ですよ。

茶化すようにこちらを盗み見ながら生意気にも微笑む沖田の両頬を軽く抓り上げてから「生意気」と呟けば、やはり彼女は楽しそうに笑うのだからちょっとだけ始末が悪い




ああ、少しだけ祭りが楽しみだ




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bkm






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