「お姉さん泣きましたか??」
「え?」
次の日の朝、いつものように遠慮なく団子を頬張る沖田総司に声を掛けられ、私は首を傾げて見せる。そうすれば一つだけ団子の余った串を皿の上に置いて沖田は私の頬へと手を伸ばし、親指でそっと目じりをなぞった
「赤くなっています。いえ、腫れている。」
「−−−、鏡で見たけど腫れてはなかったよ」
「よく見なければわかりませんから」
にっこりとどこか意味深げに微笑んで沖田は残った団子にかぶりつく
飄々としていてどこか掴みづらい雰囲気を出すもんだからそれ以降、問いただすタイミングを完璧に失ってしまった。完全に暇になってしまったわけだ。
だからこそ、金に物を言わせて消えていく串の置かれた皿を静かに回収していくことしかできず、なんだか少しだけ悔しい。
頬を子供のように膨れさせ、洗い場から出てきたとき、どこか身に覚えのある香りがふわっと鼻を擽った。
「沖田、お前またこんなところで‥‥」
「土方さんこそ、最近ここに来る確率高いんじゃありませんか?私はお団子を食べに来てるっていう理由がありますけど。……あ、まさかお姉さんに色目を使おうって思ってます!?許しませんよ!!」
「お前に許される許されないの必要はねえだろう。おい藤、悪いがみたらしを一つ」
「お茶は濃いめと薄めありますけど」
「濃いのでいい」
此方とは目も合わせずに言い切った男に少し笑みをこぼして背を向ける。
昨日のようにジクジクとも痛まぬ胸に少しだけ息を零して、私は安堵した。
アレはきっとただの間違いだったのだと、あの男に心動かされたわけじゃなかったのだと安心した
大丈夫だと言い聞かせる。そしていつものように声を弾ませるのだ
「みたらし一つ濃い目のお茶添えです!!」
『大事なものが、見えなくなっちゃいけないよ』
誰かがそっと 囁いた気はするけれど。