一方、無事人斬りを役人へと引き渡した土方は自分の行動に疑問を抱いていた。
いや、正確に言うならば置いてきてしまった女への自分の態度に疑問を抱いていた
土方歳三は伊達男である。女とみれば不細工であろうと比較的紳士的な対応をするし、夜の誘いであれば割と喜んで乗る程度には女好きでもあった。勿論美人に越したことはないし胸がでかければ最高である。そんな自分が女を置いてきた。暗く月明りでしか道をたどれないような夜道に。
平時であればそんなことはしなかっただろうにその時の彼は大いに混乱していたのだ。
沖田が懐く団小屋のあの店員とは顔見知りだ、何度か談笑したことだってある。
そんな彼女が困ったように雑木林の中で隠れているのを見て彼はなにがなんでも助けなければと思い、何も考えずに人斬りと思われる集団に突撃していた。
その結果が店員の放置だ。
―――寒そうだったな、羽織でも貸せばよかったか
少しだけ思案してふぅっとため息を零す。いつも同僚である沖田が世話になっている相手を思い浮かべて彼は彼の帰路につく。
数日後、甘味処に訪れた土方に対し、満面の笑みで礼と照れたように渡された手作りだという沢庵を渡された彼は自分の胸に何かが刺さったのを自覚した。