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ちりんと涼し気な音を立てて風鈴が揺れる。ジリジリとした熱い日照りが続く京の町。軒下に水を撒けどもジュッと不穏な音と共に半透明な白い煙がふわっと浮き上がるだけだ。
尾が一本になったあの日から早十数年。土佐の田舎町に居た私はそこで数年を過ごしてこちらに移り住んだ。いまでは近所でもそこそこ有名な茶菓子屋の売り子をしている。そもそもこの茶菓子屋は二人の老夫婦によって切り盛りされてきたわけだが、奥さんの方が最近、腰をやってしまい、困っていた所に私が歩いていたという、ある意味運命的な出会いがあったわけだが以下略としておこう。あまり興味もないだろうし。

おじいさんの名前を平八郎、おばあさんの名前をお舟という。まあ、いっちゃ悪いがどこにでもいる穏やかな方々です。

年老いた二人を見ていると人間って寿命短いし脆いなぁとも思わなくわないが、この二人が居なくなるのは嫌だなぁとここ数百年感じていなかった気持ちが湧きあがる。




「藤―、お藤?」
「あ、はい!」
「朝食が出来たから運んでくれる?藤の好きなだし巻にしたんだよ」




厨房から聞こえてくる優しげな声に目元を緩ませ、下駄を鳴らして中へ入る。だし汁と味噌の香りに胸を膨らませた。勝手口を開けて中に入れば湯気が立つ味噌汁と麦入りの白米。今日は朝からやけに豪華だ




「白米ですか、朝から豪華ですね」
「臨時収入があったからね。ほら、膳を運んで」




せっつかれるように言葉を投げかけられ、はいはいと言いながら膳を運ぶ。茶の間ではおじいさんが楽し気にこちらを見つめて微笑んでいた




「毎朝思うが、娘ができたようだなぁ、ばあさんも二人で住んでいたころに比べて毎朝毎晩張り切って料理をする」
「それ、あとからくるおばあさんに言ったら物投げられるでしょうから言わないでくださいね。照れ屋なの知ってるでしょう」




意地が悪いなぁ、もう。唇を尖らせて怒ったようにして見せれば楽し気に笑い飛ばされる。
そんな二人に囲まれた何不自由ない日常で、私は一人の男に出会うこととなのだ。



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bkm






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