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「はぁっ、ぁ‥‥ふ、は、ぁ…」




着物が重い。せっかくあの鬼の子たちからもらった肩掛けの着物がボロボロで、無地の白い装束は血に濡れ朱に染まる。あたりに散らばる黒い烏の死骸に一瞥を向けてあたりを見回す。もう空にも地にも、私以外生きている者はない。あばら家には結界も張っていたし、あの子たちは無事だろう。それにしても




「どうするかなぁ、この烏」




ざっと見て数十匹、最悪三桁。朝まで放置して獣たちや妖の餌にするとしても骨や脳髄までは食べないわけだし。




「燃やすか、『狐火』」




ポポポポポポポッ

青白いソレ等が私の周りに浮き、揺らめきだすと無数にある烏の死骸から青い炎が噴き出して包んだ。何体かはまだ息をしていたのかピクリピクリと動き、やがて力尽きたかのように動かなくなる。




「――――。ねむいなぁ」




私も、人の感覚から離れたなぁと一人零して胸元から煙管を抜き取ると口に運び、ふぅっとゆっくり煙を吐き出す。それが天に昇り見えなくなるのを確認してからあばら家に入りカギを掛けた。

血を存分に吸い上げた髪から血が滴り落ちて水たまりを作り、それを呆然と眺め、私は何も思えなかった。




「こわれそ」




何がとは言わない、言えない。本当に壊れてしまっては怖いのだ
人だったはずの自分が時々分からなくなるのは困りもので、昔の自分ならきっと吐いていたと思うのに、今の私はそんなこと思えなくて。




「「藤ッ!」」
「!!!」
「ち、ちがっ」
「なんで!?なんでここに閉じ込めるん!?うちらだって鬼や…!鬼の中でも上位に位置する種やのに、うちらやて戦えるのに、なんでっ」
「あ、…うん、ごめん。ちょっと最近暴れてなかったからさ」




ごめんごめんと涙を流す彼女たちの頭を撫でて抱きしめる。だけど血で汚れていたこと思い出し慌てて身を引けば、彼女たちはそれを許さずに力強く私の着物を握って顔を擦り付けた




「黒、金…」
「心配したんよぉっ…!叫び声が聞こえるたび、あんたやないかて、いなくなるんじゃないかって」
「また、二人だけになるのかと、吾は、吾はぁっ!」




とうとう声を上げて泣き出す小鬼たちに私はお手上げだと言ってされるがままになる。
二人がその白い頬を赤く染めるのもいとわないと言わんばかりに顔を押し付けて声を上げてなく。そうか、心配をかけてしまったのかと罪悪感が募る。そうだ、泣くってこんな感じだったか。二人の震える肩を撫でながらぼんやりと思う。



―――いつから、泣いていないんだろう



きっと天上に来てからは泣いてない。いつしか涙も流せなくなっている自分に愕然とし、そして恐怖する。人としての感情が薄れている気がするのだ。ずっと前から。でもきっと【大丈夫】と口の中で転がして、私は目を閉じた







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bkm






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