「そうだ、御山を守ったご褒美が握り飯だけなんて割に合わないね。二人に着物を見繕おう。二人とも可愛いからきっと似合うのがたくさんあるよ。黒のは紫、金のはその髪と同じものにしようね」
「あのな、藤、吾は吾はな、藤が選んでくれるなら何でもよい。」
「うちもあんさんが選んでくれるなら何でもええよ。」
「ふふ、うれしいな。―――っ」
ピクリと何かを耳が拾って、尾が不機嫌に揺れる。人の耳では聞こえないかすかな音。幾人かの人の足音。瞬時に耳も尻尾もひっこめて黒と金の頭を撫でると立ち上がり、家の光を消した。その際、二人の角を消すのを忘れない。
「藤…?」
「―――っ、人の気配や、金のこっち」
「黒、金、倉にいて。何か、嫌な予感がする」
ここは仮にも大江山。妖たちが蔓延る所だ。そんなところに大量の人間?
いや、相手は本当に『人』だろうか。足音は確かに人だ。けれど普通の人間はこの山奥に来る前にただの肉塊となっているはずだ。じゃあこれは、この足音はなんだ
シャラン
「―――っ!烏天狗っ…!!」
瞬時に元の姿に戻ってあばら家の外へと出て行けば空にも家の周りにも無数の羽の生えた人間の姿に眉を潜めた。
「ここに何用です。」
「鬼の子をかくまっていると聞いた」
「鬼の子?…それがなにか」
「贄ぞ」
「誰への?」
「大天狗様への、鬼の子の肝は力の源となる。鬼の子の血は良い酒になる。鬼の子の髄は良い薬になる。育ちきっては意味がない。大天狗様はお怒りだ、ようやく捕まえた贄が来ぬと。怒りに触れて同胞が殺された、時間がない、鬼の子を返してもらおうか」
「返す?おかしなことを言う。攫ってきた鬼の子がお前たちのモノのわけがない。」
ふふっと袖で口元を覆って笑みをし、歌う様に囁く。
「――――、あの鬼の子はすでに私のモノだ」
瞬時に空気が氷漬き、…キュゥっと何処かでキツネが鳴いた気がした。
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bkm
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