秋にふるふる | ナノ


秋にふるふる(2000打感謝/鉢雷)


あれほど耳に残った蝉時雨もどこかへ消え去り、冷んやりとした、肌に心地よい風が流れる季節となった。夜、暗闇に流れるのはりんりんとした静かな虫の声。

忍術学園に、秋がきた。

「ねぇ三郎」
「なんだい?」
今日は何もすることがなく、部屋で寝そべっていた私に、雷蔵は読んでいた本をパタリと閉じて話しかけた。
「今日中在家先輩に教えて頂いたんだけど、今裏山の紅葉が綺麗らしいんだ」
中在家先輩、と聞いて、ふっと脳裏に無口な先輩の顔がよぎる。あの先輩は、雷蔵にとても良くしてくれていて、嫌いじゃない。他の六年生に比べて落ち着いているし。委員会中も雷蔵といることができるから羨ましいな、とは思うけれど。
…って、いやいや、今はそんな話ではない。
「君が言いたいことは裏山に出かけないかと、そういうことかい?」
「ご名答」
どうだい?と和やかに聞いてくる雷蔵へ私は賛成、と返した。

秋は一番好きな季節なんだ。
なぜなら雷蔵、君に一番似合う季節だから。


紅葉を見るのに最適な場所を探している途中、さすが裏山というべきか、いろんな忍たまの姿を見た。
マラソンをしている体育委員会の面々や、あっちだこっちだと言って走り回る三年生、ギンギン言って鍛錬をする先輩などなど。にぎやかだなぁと思いつつ、人気のない場所を探す。
「雷蔵は静かな場所がいいんだっけ」
「うん、本を読みたいんだ」
そう言って雷蔵は一冊本を取り出す。
それじゃあ私が来た意味は?と聞くと、一人はなんか寂しいから、と可愛らしい答えが帰ってきた。

うーん、困った、雷蔵が可愛い。


しばらく歩き山の奥に入ると、人の声が聞こえず、かつ紅葉が一面に広がるいい場所を見つけた。おぉ、と二人揃って感動して、ここにしようか、と声をかける。雷蔵は木の幹にもたれかかるように座り、胡座をかいて本を開いた。
一方私はその木から伸びる枝、その枝の中でも一等寝心地の良さそうなものを見つけて横になり、上からそっと雷蔵を見る。

鳶色の髪。
ふわふわとしたその髪は、地面に散らばる黄色、赤の葉と重なって、まるで秋に溶けているような。
そよそよと吹く風が、一瞬強く吹き、周りの木の葉が一層舞い上がる。
鮮やかな色に染まる視界。
その向こう側に、君がいる。

「三郎、見てご覧よ!風で読んでいた本に紅葉が落ちてきた」
雷蔵が顔を上げこっちを向く。
その手には一枚の赤いもみじ。
君を歓迎しているんだよ、と言うと、お前にしては風流な事を言うねと少し笑われる。そしてまた雷蔵は、本へと目を向けた。

(まあ半分本気だったけど)
少しの冗談、少しの本音が入り混じった言葉。だって雷蔵、君のその髪も、暖かな笑みも、優しい雰囲気も、その全てに秋が似合うんだ。秋の山に少しくらい、歓迎されてもいいだろう?

願わくば、一年後、二年後…いや、残り数十回訪れる全ての秋を君と過ごしたいと告げたなら、君はどんな顔をするのだろう。

言ってしまいたい。伝えてしまいたい。
この秋と共に。

でも、君の反応がまだ少し怖いから、もう少し待つんだ。私の覚悟が決まるまで。

はらり、はらりと私の周りから紅葉が雷蔵の下へと降っている。

ああ、君へと降るこの秋と共に、私の気持ちも降って行けばいいのに。
君の心へ、届けばいいのに。



秋にふるふる、赤いもみじ。
君にふれふれ、私の心。





2000打感謝文でした〜!
雷蔵って秋似合うよなぁってことです。早く三郎の気持ち伝われ〜(念
持ち帰ってやんよって方は是非…!
読んで下さり、またサイトを訪れて下さり本当にありがとうございました!



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