06



「えぇー…こんなのおかしい…」
僕の深い深いため息が地に落ちた。

八を探してどのくらい時間が立ったのか。相変わらず八を見つけることの出来ない僕の目の前には、今、とんでもない光景が広がっていた。
どこまでも続いていそうな、一直線に伸びた長い長い廊下。その左右の壁には、数多くの扉が並んでいる。

「ど…どれから開けるのが手っ取り早いかなぁ…」
この扉の多さに僕の悩み癖が発動するのも仕方がなかった。目に見えているだけでも左右合わせて20の扉はありそうだ。でも、暗くて奥が見えないからまだまだあるかもしれない。これを全部開けるとなるとすごく時間がかかりそうだけど、でもやっぱり…

うーん、うーん…と僕の唸る声が響く。そして、
「もう考えるのも面倒だし片っ端から全部開けてしまおう!」
という結論に達した。
いつだったか、八が
「雷蔵は悩むときには悩むけど大雑把なときは本当に大雑把だよなぁ」と笑っていたのを思い出す。
こういうことか、と理解して、
「でも面倒なんだから仕方ないよね」
と一人で問題を片付けた。

それからはバン、バンと扉を開ける音だけが鳴った。開けても開けても八はいない。見えるのは薄い暗闇に、埃だらけの部屋。
(ってか…この屋敷、こんなに部屋が入るほど広かったっけ…)
とか思って。それでさらに混乱しつつもひたすら扉を開ける。
「はーーちーーっ!!」
いい加減に腕も痛くなって来た頃。
僕は十何枚目かの扉を開いた。
バン、と音がして、それと同時に部屋を覗く。でも八の姿はない。
「ここも外れ…!」
うんざりしながら少々乱暴に扉を閉める。そして次の扉を開きに行こうと部屋に背を向け歩きだした瞬間だった。
「っ!?」
突然後ろから手が伸びて来て、僕の口を塞いだ。いきなりのことで体が硬直した。そして手の主は抵抗がないのをいいことに僕の口を封じたまま、ずるずると後ろへと…部屋の中へと引っ張っていく。

(っちょ、待った…!)
はっ、と気が付いて抵抗しようとしたけれどもう遅く、体はもう部屋の中だった。僕は後ろから口を塞がれていて、そのままの体勢で引っ張られたものだから、部屋の扉が見える格好だった。そして、扉が勝手に閉まるのを目撃する。

誰もいないのに、ギィィと嫌な音を立てて閉まっていく。
嘘だ、何で、ってか待って!と思ったけど扉は非情にもバタンと音を立てて閉まった。
部屋の中が暗闇に包まれる。


僕の口はまだ塞がれたままで。いい加減に苦しくて。
離せ、と言おうとした時、タイミングよく手は離れて行った。
「…っぷっは…」
はぁ、と荒く息を吐く。口が手で封じられるのはかなり辛かった。でもそれより今は、
「…誰ですか」
僕を部屋に引きずり混んだ相手を知りたい。
少し恐怖があった。何せいきなり自分を部屋に引きずりこむような人だ。
八だったら、僕の呼ぶ声に反応するだろう。でもさっき僕が部屋を覗いて声をかけたとき反応はなかった。だから、今僕と同じ部屋にいるのは八じゃあない。
では誰なのか。
恐る恐る振り返る。ゆっくりと振り向いた僕の視線の先にいたのは。

「…へ!?ぼ、ぼぼ、僕?」

僕の顔…をした誰か。一瞬鏡かと思ったけれど、服が違った。袴のような服を着ている。髪型も違っていて、僕は髪を短くしているけれど僕の前に立つ僕は髪が長く、その髪を上の方で結んでいた。
「…なにこれ、どういうこと…」

余りの驚きに声がかすれる。
とりあえず現実なのかどうか確かめようと、目の前の顔を触るために手を伸ばした。けれど、僕の手が顔に届く前に、僕の顔をした誰かの手に掴まれた。
相手の手は冷んやりとしていて冷たくて、でもそれが気持ちよかった。
「君は…」
誰?そう聞こうとした瞬間、被せるように相手の声が降ってきた。
「雷蔵…!」

(え、なんで僕の名前…)
知ってるの、そう聞こうとした時。
目の前にある顔には、喜びが溢れていて。

ー…この嬉しそうな顔、僕は知ってる。でもどこでだろう。思い出せない。

ふっとそう思った次の瞬間、僕は抱きしめられていた。

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