05



まずは自分の耳を疑った。そしてこれは夢かと思って試しに頬をつねってみると普通に痛くて。夢じゃないんだと悟った。

「えーっと…」
どうしよう雷蔵。妖怪本当に居たぞ。会ったぞ俺。名前までばれてる…。

「あ、俺、久々知兵助。兵助って呼んで」
「へ!?あ、はい…」

突然の自己紹介。その兵助はじーっとこっちを見てくる。何か話していないと気まずくなりそうだった。
「え、えと兵助は…なんの妖怪なんだ?」
その場しのぎで尋ねると、兵助は何故かやたら嬉しそうな顔になって、
「俺?俺は猫又だよ」
と耳としっぽをユラユラさせながら言った。
妖怪とは言っても猫そのものの動きで…正直可愛い。

「え、えと…兵助は妖怪だから俺の名前が分かった…とか?」

可愛いとか思った自分を打ち消す様に質問する。咄嗟の質問だった。でも、聞いた瞬間に兵助の目が小さく開かれ、そして辛そうな顔になった。え、俺…何かまずいこと言ったのか?

あわてて、ごめん、と謝ろうとした時には、兵助の顔つきは元通りで。
「うん、妖怪の感みたいなものかな」
と笑っていた。
さっきの顔、なんなんだよって聞きたかったけど、もう一度あの辛そうな顔を見るのは嫌で、そしてどこか聞いてはいけないような気がして、次の質問をした。

「あ、えと…ここには兵助一人…?」
「いや、俺の他にあと二人…」
兵助の言葉が終わるかどうかの瞬間。たたたたーっと何かが部屋に入ってきた。それは、
「あ…さっきの狸!」
山の中で怪我をしていて、怪我の治療をすると、着いてこいとでもいいたげな素振りを見せた、妙に人間らしい狸。
元気そうだったから思わず、よかったー…と言おうとしたとき、ぼん!と音がなり、狸がどこから出たか分からない煙に包まれる。
「え?」
あまりの展開に着いて行けず、ひとまず狸の姿だけでもみようと目を凝らす。すると煙から出てきたのは狸じゃなくて…
「俺も妖怪で、尾浜勘右衛門っていうんだー!よろしく!」

耳も尾も狸、でも人型。
「た、狸も…かよっ!」
狸も妖怪だったらしい。いやー、さっきはどうもありがとう!と笑いながらいう勘右衛門。自然に会話に混ざっている。

猫又の兵助、狸の勘右衛門…ここはどうやら本当にお化け屋敷…いや、お化け屋敷というより妖怪屋敷…。

「な、なんか…本当にいたんだな…妖怪」
思わずはぁーっと息が漏れる。
「そりゃあいるよー。とは言っても最近減少気味だけどね」
勘右衛門が口を尖らせて言った。もう人間にしか見えない。これが妖怪だなんて誰も信じねえよ…。

「他の妖怪は皆遠くへ旅に出てここから離れたんだ」
兵助が呟いた。
「ここには俺と勘ちゃん、あともう一匹の狐しかいない」
…ん?それなら…
「兵助達はどこか遠くに行かないのか?こんな古ぼけた家に…少人数でいても楽しくねぇだろ」

思ったことを言ってみた。この家はもうボロボロで、中も薄暗くて、人間らしい兵助達のような妖怪にとってお世辞にも楽しい場所とは言えないような気がして。
俺の質問に対して兵助は一言、
「約束があったんだ」
と答えた。
兵助が俯き、黒髪がさらさらと流れる。目はさっきと同様、どこか切なさが漂っていて。
「…一人の人間と、ある約束をしていたんだ。その約束を果たすまではここから動かないって決めた」
でも、と兵助は続ける。
「でも、もういいんだ。最近やっと約束が果たされて…」
「そ、そうなのか?」
「あぁ。全部思い通りにって訳じゃなかったけど…でもほとんど約束は果たされたようなものだから」

そう言った兵助に、そっか、とだけ返した。返したけど、でも…
(俺…何か…大切なことを忘れている気がする。すごく…楽しかった時間を忘れてる気がする)
心の中がもやもやした。ぽかりと何かが抜けていて、思い出そうとしても思い出せない。そして、何故かは分からないけれど、兵助にやたら申し訳ない気持ちになっていた。
(俺が兵助に何かした訳じゃないのに…さっき会ったばかりなのに)
何を忘れているんだろう。そう考え込んだ瞬間。
(ん?忘れている…って他にも何か…)
と思って、

「あああぁぁぁ!!ら、雷蔵!!」

ばっ!と脳裏に一緒に来た友人の顔が浮かんだ。そういえば元は雷蔵とはぐれて雷蔵を探していて。
「な、なぁっ!?俺と一緒にいた、髪の毛ふわふわの…えと…不破、不破雷蔵!どこにいるか知らないか!?」

と慌てて尋ねると、勘右衛門から、
「あ、大丈夫!雷蔵はぜーったい大丈夫!」とやけに自信満々な答えが返って来た。
「その自信はどこから…」
「俺たちの他に、狐がいるって言ったでしょ?その狐は雷蔵のことが大好きだから!」
は?雷蔵のことが大好き?なんだそれ?
というより…まるで今まで仲がよかったような言い方。さっきから、兵助も勘右衛門も俺や雷蔵の名前を呼び慣れてる気がする。かく言う自分も、兵助や勘右衛門を呼ぶのにはすぐ慣れた。
普通に呼び合って、それがしっくりきて…。
…やっぱり俺たちどこかで会ったことあるのかなぁ…とか考えて。

雷蔵は覚えていないかなぁ。
でもまぁ今は…
「らーいぞー…」
雷蔵と合流することを考えよう。

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