03



「うーん…変わった狸だよなぁ…」
歩きながら八が言った。僕たちはさっき出会った狸に着いて行っている真っ最中で、森の奥へとずんずん進んで行っている。にしてもこの狸はなかなかに優しい…というか、僕たちに配慮してくれて、何度か立ち止まっては、僕たちが後ろにいるかを確認している。
「なんか…やたら人間味のある…狸だよね…」
もしかしたら妖怪かもしれない…とか本気でそう思ったとき、それまで目の前を覆っていた木々がなくなり、視界が明るくなった。
そして狸の向かう先には一件の古ぼけた屋敷が。相当大きな屋敷だ。和風の、というか昔話にでも出て来そうな。

「え、裏山ってこんなにすごい家あったの!?」
「人は住んでないみたいだけどな…」

その屋敷は屋根の部分も大分崩れ、柱もところどころ欠けていた。どう考えても人がいる気配はない。むしろ幽霊の住み着くお化け屋敷とでも言われそうな感じ。
しばらくすると、いきなり
「なぁ雷蔵、この家入ってみるか?」
とか八が言ってきたから僕は驚いた。
「えぇ、入るの!?というかさ、僕たちもともとここでのんびりしようと…」
「でも折角こんな変わった家見つけたんだしよ…あと狸も気になるし」
「うーん…えぇ、でもゆっくりする時間だって過ごしたい、けど確かに狸も気になる…けど狸もういないかもだし…てかなんか不気味だし」

そして、また僕の悩み癖が始まったとき。頬に、ぽつ、と水滴が。続いて、腕にも。
「へ?」
「お?」
僕と八が同時に上を向いた瞬間。
ドバッと雨が降ってきた。すごい雨だ。目の前が見えなくなるくらいの。

「ええええ!?あ、そういえばTVで夕立がどーたらとか言ってたような…」
「まじかよ雷蔵おおお!!くそっ、屋敷に入るぞ!!」
「あ、うん!」

今度は迷う暇もなかった。屋敷へと走って行く。しかし、その途中、僕は泥に足を取られて転んだ。
「あいたっ」
起き上がると服は土と雨でぐしゃぐしゃだった。
「あーもー!ってあれ、八?」
鈍臭い自分と滑りやすい地面に少し腹を立て泣き言を言いながら、これ以上は濡れないようにと屋敷へ駆け込む。しかし、八の姿が見当たらない。大分奥まで行ったのかもしれない。
明かりがあるはずもなく、さらに夕立という中での家は真っ暗で少しの恐怖があった。
でも僕はとりあえず…
「八…探そう…僕のバッグも持って行かれたし」
と思って、屋敷の中を歩き始めた。






「鉢屋ーーっ!兵助ーー!」
一匹の狸が屋敷の中を駆け回る。とても慌てたような、ドタドタした音。しかしその足音はどこか弾んでいた。

しばらくの間その足音は鳴っていた。けれど探し人が見つからなかったのだろう、足音が止んだ。そして、
「二人ともどこ行ったんだよ…また屋敷の中を歩き回ってんのかなぁ…折角…」

折角、雷蔵と竹谷が戻って来たのに。

そう、ポツリと漏らした。

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