02




山に到着した僕と八は、山へ入ることのできそうな道を見つけた。入り口に自転車を止める。座れそうな所を見つけたら何か食べようということでお菓子も持ってきた。そのお菓子の詰まったバッグを持って、出発する。

山の中は静かで明るくて、僕たちの歩く音だけがさくさくと響いた。

「わぁ、なんか…すごく穏やかだね…」
空から降り注ぐ太陽の日差しと、それを受けて地面に映し出される樹の影。木漏れ日はとても綺麗で、思わず声をあげてしまうほどだった。生命の息吹を感じる山だ。木々をみながら歩いて行くと、左右に分かれる道に出た。
「雷蔵、どっちに行くよ?」
と八が聞いてくる。
「え?どっちでもいいと思うけどでもどっちか選ばなきゃいけないし、うーんと…えっと…」
僕は迷い始めた。僕には酷い迷い癖があり、2択以上迫られるといつまでも悩み続けついには寝てしまう。自分でもなんとかしたいとは思うけれどどうにもならないから困る。例によって悩み始めた僕へ、八が、「雷蔵、お前に選択を迫った俺が悪かった」と言って笑いながら手を合わせて謝ってきた。
「まぁ気を取り直して、俺の直感で…左行くか!」
そういって八が歩き出し、僕もそのあとを着いて行く。それからどのくらい歩いただろうか。そろそろ疲れてきたかな、というころ。無言で前を歩いていた八がいきなり、「あ」と声を出し、人差し指を口に当てて、静かにしろよという合図をする。そして、空いている手で何かを指差した。なになに?と、並んで八の指差した先を見る。
そこにいたのは、一匹の狸だった。樹の根元に蹲っている。
「わ、山に狸ってなんか可愛い」
「だなぁ…でもあいつ、怪我してねぇ?人が近いのに動かねぇし…」
言われて見れば確かに妙だ。山に住む狸は人に慣れていないから警戒心が強いと聞いたことがある。そろりそろりと近付いてみると、体を起こしこっちを見てきたが、あと数歩で触ることができるまでに距離を縮めても狸はそこから動く気配がなかった。よく見ると足の形が少しおかしい。腫れているみたいだ。
「足怪我してんのか…雷蔵、バッグから水筒とタオルとってくれ、冷やす」
「え、でも八、野生の動物にそんなことしていいの?逃げたりしない?」
「冷やすだけだから大丈夫のはずだ。放ってもおけないしな。逃げたら逃げたで、それなりの元気があるってことで問題ないだろ」
そう言って八は笑った。

治療は手際良く行われて、数分後には狸の足の腫れは引いていた。治療の間も狸は暴れることなくじっとしていた。そして、やること全部をやり終えた八が、「よし、こんなもんか!」と言ったその瞬間。

それまでおとなしかった狸がいきなり動きだし、ダッ、と走り出したのだ。
「お、おい、そんな急に走り出すと怪我が…」と八が声をかけたが、相手は動物だ、人語を理解するはずもないと思っていた。ところが。狸はピタリと立ち止まり振り返って僕たちを見て来る。その仕草はまるで、着いてこいと言っているようで。
逃げないことといい、今の行動といい、この狸は何か変だ。
「ねぇ八…」
と声をかけると、八も同じことを思っていたらしく、僕を見て頷く。
「着いて行って見るか」
と一言だけ言葉を交わし、僕たちは不思議な狸に着いて行くこととなった。

prev next

 

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -