01



流れる風に散りゆく桜が混じる春。
ぽかぽかとした心地よい暖かな日差しが、眠気を誘う。

「ふわぁぁ…」
「雷蔵、眠いのか?」
「うん…結構」

大きなあくびをした僕…不破雷蔵は、この春めでたく高校二年生となった。今はちょうど春休みに入っていて、学校で仲良くしている竹谷八左ヱ門の家に遊びに来ている。

「なぁなぁ雷蔵ー」
ベッドの上から八が、床に寝そべっている僕へ向かって顔を向ける。
「何ー?」
「俺の家に来たはいいけどよ、何するんだ?」
「…特に何も…」

そう。特にやりたいことはない。やらなきゃいけないことはある。宿題。でも一体誰が、こんな春真っ盛りの日に宿題をするだろうか。せっかくだから勉強以外のことを考えて過ごしたい。

「…やることもねぇんなら外行くか?」
「どっか面白そうなところある?」
「学校の裏にある山とか」
「あぁ…」

僕の脳裏に大きな山が浮かんだ。
八が言った学校の裏にある山。僕たちの住む町は、田舎というに相応しい場所だ。見渡す限りの森、田畑、緑。そして家が少々。そんな自然いっぱいの町だけれど、その中で一際目立つのが学校の裏山だ。他よりも高くなっていて、町のどこからでも見える。なかなかに立派な山で、小学校の時には、妖怪が出るだの怪奇現象が起こるだの、そういう噂が絶えなかった。小さい頃には入ってみたいと思っていたけれど、危ないからと言われ立ち入りを禁じられ、大きくなってしまうとそんな噂も聞かなくなり、冒険心も薄れてしまって。結局裏山に入ったことはなかった。


春真っ盛りの今日。暖かな日差し。穏やかな風。揺れる緑。裏山を想像すると、とても穏やかな時間が流れそうだなぁとか思って。
「裏山、行きたいかも」
と言ってみた。するとそれを聞いた八は、ガバッと立ち上がり、
「よし!じゃあ行くぞ雷蔵!俺、準備してくる」
と嬉しそうに言って部屋を出た。そういえば八は自然が大好きだっけ。樹や草を見て、風を感じて、幸せそうに目を細める。僕もそういうのは嫌いじゃない、むしろ好きだ。

ガタガタと、八が慌ただしく準備する音が聞こえる。

入ったことのない裏山へ行くこと、のんびりとして気持ちのよい空間に行けそうなこと、そのことを考えるとワクワクしてきた。玄関から、雷蔵ー準備できたぞー、という八の声がした。

今行く、と言って立ち上がる。少し、気持ちが騒ぎ出した。


でも僕も八も知らない。今から向かうその場所には僕たちをずっと待ち続けていた存在がいることを。

つけていたTVの電源を切る。
夕立がどうのこうの言ってた気がしたけれど、全部聞く前に切った。こんないい天気なんだ、関係ないだろうと思って。

そして、僕たちは自転車に乗って裏山へと向かった。

prev next

 

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -