09



「八ーっ!」
「ら、雷蔵ーっ!!」

僕が三郎に連れてこられた部屋へ入ると、そこには八の姿があった。
屋敷に入ってから八に会うまでのこの長い時間を思うとなんとも言えない気持ちが込み上げてきて、思わず抱きしめあう。

「もー、僕すっごく心配したんだから!」
「俺だって!あー…本当最初置いて行ってごめんな雷蔵…!」
「ううん、もういいよ八…!」
「雷蔵…!」
「はい、そこまで」

目にうっすらと涙を浮かべ見つめ合うという僕らの感動の再会に割って入ったのは冷たい目をした三郎だった。

「私の雷蔵と…」

三郎から、得体のしれないオーラか発されている。怒りとも嫉妬とも言える異様なオーラが。

「え、と…?」
少しびくつきながら、どちら様?とでも言いたげな八の視線が僕に注がれる。

「あぁ、えっと…この人は三郎で、僕を色々助けてくれた人だよ…ちなみに」

僕はちらりと、八の後ろにいる2人組に目を向けた。
「あぁ、こっちの猫っぽいのが兵助、狸っぽいのが勘右衛門」
と八が説明してくれた。
兵助は猫っぽいというか、猫耳がついていて、勘右衛門は狸っぽいというか、狸の耳がついていて。

「あ、妖怪?」
僕が、尋ねると、

「うん、俺と兵助と三郎は妖怪でここに三人で暮らしてるんだー」

勘右衛門が答えてくれた。
「俺は勘ちゃんでいいし、兵助も兵助って呼んでやって。八も、三郎は三郎でいいから」

仲良くしよう、と、勘右衛門…勘ちゃんが手を出してくる。

(あ、)
また、ふっと懐かしい感覚が。えっと、デジャヴ…とかいう…。

(らーいぞー!)

上の方から、勘ちゃんの声がした。
え、と思って周りを見るけど当然勘ちゃんは目の前にしかいない。
「…雷蔵?」
いきなり辺りを見渡した僕を不思議に思ったのか、心配そうな顔で覗き込まれる。
「今…」
勘ちゃんに呼ばれたんだ、そういうと、目の前の勘ちゃんの肩がぴくりと動いて、
「…何も言ってないけど」
と言った。
「そ、そうだよね…目の前にいるのにおかしいよね!えと、改めて…よろしくお願いします」

慌てて目の前の手を握る。
勘ちゃんの顔に浮かんだ違和感は拭いきれなかったけれど。

「えと、三郎…」
勘ちゃん、兵助と握手してから、僕は三郎に声をかけた。

本題に入りたい。僕たちの関係を教えてほしい。

「あぁ、わかってるさ」
三郎は僕に皆まで言わせることなく返事をして、雷蔵もそこへ座れ、と言った。

そして僕、八、勘ちゃん、兵助、三郎…この五人で円を作って座った。

「三郎?何をするつもりだ?」
兵助が不安気な顔で三郎を見つめた。それに対して、
「…雷蔵が余りにも知りたいというからな、私たちと雷蔵たちとの関係を話そうと思って」
と、三郎が静かに返す。

「え、待って三郎!そんなことしたら…」

勘ちゃんが、がたん、と大きな音を立てて立ち上がった。かなり慌てていて顔が青くなっている。けれどそんな勘ちゃんを三郎はじっと見つめ、静かに一言、
「勘右衛門」
と声をかけると、勘ちゃんはぐっと何かをこらえるような仕草をして、けれども何も言わず、しぶしぶと元の場所に座った。

そんな勘ちゃんをちらり、と確認した三郎はまた真ん中を向いた。そして、

「これは、雷蔵と八、そして私と勘右衛門と兵助…この五人全員の話だ」

静かに、本当に静かに、三郎がぽつりぽつりと話し始める。


「私と勘右衛門と兵助は、雷蔵と八とは前世からの付き合いだ」


昔話は、この一言から始まった。

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