07



「雷蔵ーっ!雷蔵雷蔵!」
僕の顔をした誰かは、僕に抱きついて離れない。いきなり抱きしめられてからずっとこの状態でちょっと息苦しく感じ始めて来た。

「あ、あの…苦しいんで離してもらえませんか…」
「嫌だ」

即答。
「僕、あなたみたいな人知りませんから!誰かと間違えてませんか?」
思い切ってそう言うと。

大きく目を見開いたまま目の前の彼は固まりった。そして、顔が陰る。
そして彼は僕にくっつけていた体をするりと離し、更に視線を逸らすと眉をよせ、今にも泣きそうな目をしながら、そうか、とだけ呟いた。

その仕草を見て、何故か悲しい気持ちになった。泣くなよ、そう言って手を伸ばしたくなる。初対面のはずなのに、どうして。

…あ、でも

「雷蔵なんて名前、僕以外にいないよなぁ…」

と思った。自分でいうのもなんだけど、今の時代にしてはかなり珍しい名前ではなかろうか。
『雷蔵』の名前で人間違いをすることは…滅多にないはず。ましてや目の前の彼は、前に鏡があると錯覚するほど僕に似ている。これで人間違い…いや、でもやっぱり記憶にはないし。

うーん、やっぱり…いやでも…と考えていると、いつの間にか目の前の彼がくつくつと笑っているのが目に入った。
「…何?」
「いや、なんでも」
そういいながらも、彼の笑みは消えず。僕に向けられる眼は優しくて、まるで大切なものを見る眼で。

その眼を見ていると、胸のどこかがきゅっと縮こまった。大切に見てくれる目が嬉しくて、でもその視線の理由が分からず悲しくて。
無意識に心のどこかで謝っている。ごめんね、ごめんね。
分からなくて、ごめん。

この妙な心情を第三者が見るように理解して、


(絶対どこかで会っている)

僕は確信した。会って早々こんな気持ちになるなんて、何かあるに違いない。しかも顔が同じなんだから。でもやっぱり全然記憶にない。こうなれば。

「もしかしたら僕、忘れているだけかもしれないから…」

そういって手を差し出す。これから親しくなろう、の意を込めて。
そんな僕をに対して目の前の彼は一瞬驚き、そしてまた泣きそうな目で僕の手を見た。やっぱり悲しさはどことなく残っていたけれど、さっきより嬉しそうだった。そのことに軽く安心感を覚える。

「僕は、不破雷蔵」
「…私は、鉢屋三郎。三郎でいい」
「じゃあ僕も雷蔵でいいよ」

あ、そういえば最初から三郎はそう呼んでいたか、と言うと三郎は笑いながら、まぁな、と言った。


三郎と僕は何処かで出会ってるんだよね。さっきは人間違いじゃないか、とか言ったけど、きっと間違いじゃないんだよね?

早速聞いてみようと思ったが、聞く前に三郎が一言
「暗いな」
と呟いて。それとほぼ同時に部屋に灯りが灯る。まるで三郎の声に反応したかのような炎の灯り。

「わ、すごい!三郎何した…」
何したの、と聞きながら三郎へと移した視線。その先にあったのは、

「狐の耳…?」

僕の顔に…いや、僕の顔をした三郎の頭に、狐の耳がついている光景だった。

そういえばさっきまで暗闇の中にいて、距離の近いところにあった三郎の顔しか見えなかった。頭なんて見えなかった。しかし灯りがついた今は、ぴょんと出ている耳がはっきりと見える。

妖怪。お化け。

この二単語がすさまじい勢いで脳内を駆け巡った。

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