双忍。



モブ視点進行・少し不気味注意!



私に背を向けて走る、紺の忍装束へ目をやった。どこかで見覚えのあるあの服は、忍者を育てる学園の服だ。おそらく実習の最中なのだろう。体格や木から木へと移る身のこなしを見て、上級生で間違いない。

私はある城に忍として仕えている。今回急に下された忍務は、城の書物が奪われたので取り返せとのことだった。城の大切な書物を管理していた兵がやられ、持ち出されてしまったと。
しかしまさか。
(子供にとられるとはな)

正直驚いた。兵を倒し、書物を盗む。立派な忍者としての仕事。それをやってのけたのは、十代半ばの子供であった。子供とはいってもやはり忍を志すだけある。
(…だがしかし)
こっちはプロだ。何年も続けてきている。経験が違う。
その証拠に、書物が盗まれ、取り返せと命令されてから少しも経たぬうちに標的となる人物を見つけた。二人だった。こっちはまだ気付かれていないようで、じっくりと観察する。彼等は、よく似ている…というより、同じ姿をしていた。紺の服、量の多い鳶色の髪、同じ目。
どっちが書物を持っているか分からないように、片方が変装しているのだと思った。
更に様子をみていると、段々と彼等の違いがわかるようになり、片方の少年は温和そうな笑みを浮べ、もう片方の少年は微かに釣り目でいたずらが好きそうな目をしていた。

そして、釣り目の少年が動いた拍子に、彼の懐へと収められている例の書物を目にした。
彼等の他に敵の気配は無い。完璧に二人だ。
私は、隣にいる、二人の部下に指示をだす。
「右の少年が持っている。そっちをやれ」

次の瞬間、部下は彼等の前に躍り出た。そして書物をもつ少年へ苦無を向け、走り出す。標的となった少年は、あまりに突然のことで驚いたのだろう、反応が微かに遅れ、避けようとしたが、肩を苦無が掠めた。
「くっ…」
顔が小さく歪み、眉が寄せられた。
「三郎!」
もう片方の少年の叫ぶ声が聞こえる。
「逃げるぞ!」
どちらが発したのか分からないその声を合図に彼らは森の奥へ走り出した。


そうして現在に至る。
目の前を走る彼の腕の部分、その服の袖から血がにじんでいるのが見える。
逃げ出したあと彼等は二手に別れた。私はどうやら、書物をもつ方を追っている。あまりに似ていたために、見分ける印をつけようと思ってつけた傷はやはり役に立ってくれている。
パッと視界が開け、森が切り開かれた広い土地へ出た。だがしかし、その先は崖。
(追い詰めた)
そう思い口元を緩めたときだった。ずっと背を向け逃げ続けていた彼がこちらを向いた。そして次の瞬間、彼の手から何か丸い物が落ち、ボン!と煙が経つ。

(煙玉だと?こんなところで使っても意味はないだろうに)
向こうは崖だ。逃げ場などない。更にここは開けた土地で、風通りもよい。煙などすぐに晴れる。自暴自棄にでもなったか、少しでも生き永らえようとしたか。煙が晴れるのを待ち、そして風が吹いて、視界が良好になった。目の前の姿を確認したとき、私は驚きに目を見開いた。

(…?何!?)

目の前には二人の少年が居た。
さっき別れたもう一人の少年が、なんとか私の部下に追いつかれることなくここまできて今合流したのだろう、それはいい。
だがしかし。何故。
(二人とも同じところに傷が…)
目の前に立つ彼らには、同じところに同じ傷。
(まさか、自ら傷を)
見分けがつかぬように自分で傷をつけたと。そういうことか。
(だが)
「隊長」
「どうします」
部下が遅れてやってきた。こちらは大人三人だ。しかもプロ。あちらは子供二人。…負けることはない。
彼等の命を絶ち、書物を城へ持ち帰る。それだけでこの忍務も終了だ。
先ほど森のなかから見る限り、釣り目の少年のほうが動きが軽かった。優しく笑う少年よりもきっと実力は上だ。ならば。
「同じ顔に見えるが、少しでも優しそうな顔をしたほうを重点的に狙え」
潰せるほうから潰せばいい。いくら似せようとしても、顔や目はそうそう簡単に隠せるものではない。すぐに己の本性が見え隠れする。どちらがどちらかなど見当をつけるのは難しくない。

「いくぞ」
そして声を合図に、私達は彼等へ向かって刃を向けた。





(あぁ、なんて、ことだ)
数分後。地面に横たわっているのは、私達のほうだった。
(まるで悪夢だった)
先ほどまであっていた恐ろしい戦闘を思い出す。
優しそうな少年を狙ったかと思えば、刃が触れる直前に鋭い目つきにかわり。逆に鋭い目つきの少年へ苦無を突きつけたと思えば、優しい笑みを浮かべる。二人並べば、見分けの付かぬ顔で笑い、ぞっとしていると突然その笑いを止め、同時に鋭い目つきに変わるのだ。
素早い動きに翻弄され、右の少年を狙っていたのか左の少年を狙っていたのか分からなくなる。混乱によって曖昧に撃たれた苦無は彼等に掠りもしなかった。

「私は鉢屋三郎で」
右側からそう聞こえ
「僕は不破雷蔵」
左からこう聞こえたと思えば、今度は右から
「僕は不破雷蔵で」
と聞こえ、左から
「私は鉢屋三郎」
と声がする。くすくすという笑い声も混じりながら。

訳のわからなくなった私達はいいように遊ばれ、翻弄され、ついに書物を取り返すことなく地に伏した。

「お前達は一体何者だ」

薄れていく意識の中でかろうじて声を出すと、上から、
「誰って…鉢屋三郎と」
「不破雷蔵ですよ」
と声がした。もう、どっちがどっちか分からない。首元に苦無が当てられるのを、ひんやりとした鉄の冷たさで理解した。
「あぁ、でもそうですね」
「僕ら二人で敢えて言うなら」

首に痛みが走る。あぁ死ぬのだと思った。そして最後に耳にしたのは、
『敢えて言うなら双忍ですね』
同じように笑う彼等の声だった。




fin,



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