この手が。(留伊)



シリアス死ネタ注意。







風が吹き、大地に横たわる俺と伊作の体を撫でた。

流れた血が奪ったのだろう、伊作と繋いだ手にはもう力が入らなかった。腕も足も動かない。伊作もそれは同様で、俺たちはあとは最後の時間を過ごすだけだった。

「なぁ伊作」
「うん」
「ごめん、俺、今すっげえ清々しい」
「今から二人とも死ぬのに?」
伊作はくすりと笑った。
「あぁ、死ぬのに、だ。変だよなぁ…でも、苦しいとか辛いとか悲しいっていうのはない」
「なんでだろうね」

なんでなんて。分かりきっている。
一番大切な奴と一緒に逝けるから。最後の最後まで共に在ってくれるのが、伊作、お前だから。後悔なんて、するはずがないんだ。

それを伝えたら、伊作からは、
「本当留三郎は馬鹿だ。でも僕も馬鹿だ。同じことを考えてるんだから」
と返ってきた。

卒業してもやっぱり俺たちは、仙蔵達によく言われていた、"あほのは組"だとか思った。変わらないとも思った。でもその変化のなさが、今は無性に嬉しい。


繋いでいた手も、今では、俺が伊作の手の上に乗っているだけになっていた。力一杯握り締める事ができない。伊作の指が、手のしたで微かに動く。それがくすぐったくて、同時に愛しかった。けれどその動きのか細さに、そろそろか、とも思った。

一年生で出会い、二年生でお互いを知り、三年生でお前を守りたいと思った。四年生ではお前の心の強さを知り、五年生になると何度も伊作の手に救われた。六年生ではお互いを信じ合い、認め合った。そして各々の幸せを願って散って行った。
出会ってからここまで数年間なのに長かったと感じる。

「…伊作」
「…ん」
「またさ。いつか、どこかで、会おうな」
「うん。いつか、どこかで。欲を言えば、誰かに刃を向ける事のない世界に」
「だな」

そう、願わくば争いのない世界で。またお前と出会いたい。
最後まで繋いでいるこの手が導いてくれると信じている。
どこに生まれても、いつになっても、この時代で生きて繋がった俺たちの手が繋いでくれると。

信じているから安心して逝ける。見失うものか。もし見失いそうになったのなら、俺が何度でもこの手を引こう。

ゆっくりと力が抜けて行く。
瞼が閉じて、世界が暗くなって行く。
怖くはない。
最後に見た青空は、かつてないほど、青かった。


また、会えると信じて。
希望に満ちながら、完全に目を閉じた。

この手が繋ぐと信じて。


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