お願いが止んだころに(鉢雷鉢)



図書委員会を無事に終え、少し遅めに自室へと戻った僕を待っていたのは、
「おかえり、雷蔵」
という声と共に幸せそうな笑みを浮かべる三郎だった。

「ただいま」
そういいながら僕は部屋の奥にある机へと向かう。
机の上に、図書室から借りてきた本を広げた。
「雷蔵、それは?」
三郎が覗き込んで来る。
「ずっと前から読みたかった本だよ。委員会ついでに借りてきた」
そう説明すると、三郎からの返事はふーん、の一言で。

…構って欲しいなら素直に言えばいいのに。

強くそう思った。三郎は、僕に構って欲しくても自分からあからさまには言わない。僕から来てくれるのを待つ。でも僕は、自分から三郎に構いに行ったことはない。三郎のことはもちろん好きだが、彼の構ってくれは最早日常茶飯事だ。全てに対応していたら色々と持たない気がする。


そんなことを考えながら、机上に本を広げ、三郎に背を向けたまま下へ視線を落とす。
最初の方こそ、こっちを見てくる三郎の気配がしたが、次第に薄れていった。
静寂。

(諦めたのかな…?)
そうちらりと思った瞬間、背中に何か重いものがのる。
肩には三郎の頭。
(…寄りかかって来た)

半分諦めの入った無言の構って欲しいアピール。

(…そうだ)
そんな三郎を見ていたら、気が変わった。いつも学園では天才と謳われる三郎の、僕に構ってもらえず拗ねている三郎の、驚く顔が見たい。

「ねぇ三郎。この本の、ここの文字が…」
体勢を立て直し、三郎に向き合う。憔悴しきった三郎の顔が見えた。
私より本か、という表情。
「…どこだ?」
本を覗き込むために少し寄ってくる三郎。でももちろん、僕には今、本は関係ない。

斜め下を向いた三郎のおでこに、軽く唇を触れさせる。

時が止まった。三郎は、覗き込む態勢のまま動かない。……どうしたんだろう、そう疑問に思った瞬間。
「ら、らら、らいぞ…っ!?」
急に、ガバッと顔を横へ向け、口と、僕の唇が触れたおでこを触る。
「三郎?」
顔を見ようとすると逸らされる。何度も何度もみようとするけど、そのたびに逸らされた。けれども、耳まで赤くなっている顔は手だけでは隠しきれていなくて。

(…こういう三郎も、可愛いなぁ)
そう思ったのは、僕だけの秘密にしておこう。

あのあと、混乱から抜け出した三郎は
「雷蔵、もう一度!」
と言って来たけれど、絶対聞いてやらない。

何回も見ていたら、あの可愛さになれてしまうから。君から欲しがって口づけをしたら、あんな可愛い反応は来ないだろうから。
だから、
「雷蔵、もう一回だけでいいから!」
「いーや!」

だから君のお願いが止んだころに。もう一度してみようかな。

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