貴方と居る幸せ(竹→←くく)





「兵助、部屋の掃除の褒美じゃ、おやつをやろう!」
俺が学園長先生の気まぐれでお菓子を貰ったのはついさっきの事だった。


「ハチー」
五年生の長屋の廊下で、外を見ているハチを見つけた。
おー、という軽い返事が返ってくる。ハチの目は外に向いたままで、外に何があるんだろうと思って目を向けると、桜があった。

一緒に食べようと思っていたお菓子を置いて、ハチの隣に座る。
「桜?」
「…おう。綺麗だよなぁ」

桜は風に吹かれ、ゆらゆらと揺れていた。花びらが華麗に待って地に着いて行く。
ひらひら、ひらひら。はらはら。

幻想的で、穏やかで、静かな光景。
風が自分たちにもあたって心地よくて。

少し笑いながら、春だね、と言ったら、そうだな、と返ってきた。
気持ちいいな、と言われたから、そうだね、と返した。

こうやって穏やかな時を過ごせるのがどれだけ幸せか。
それをもう知っている。
名前も知らない誰かを殺し、いつ襲われるか分からない恐怖感を味わったこともある。
だからこそ分かるこの瞬間の幸せ。
好きな人の隣に座り、空気を感じられる幸せ。隣に愛する人の暖かさを感じる幸福。

でも、相手は?
ハチは今、俺といることをどう思ってるのか、なんて。考えてしまうんだ。






ふっと、隣の兵助を見た。何か用があるわけではないけれど、唐突に見たくなった、ただそれだけだ。
兵助の黒い髪に、桜の花弁が一枚引っかかっていた。
綺麗な黒に、桃色がぽつんとある。
取ってやろうと思って手を伸ばす。
髪に手が触れた瞬間、
(…あ)
触れてる、と思った。兵助に今、触れてる。心臓が跳ねた。
花びらを取るために軽く触れただけだから、兵助は何も気付いちゃいない。桜を眺めてる。
その横顔にまた何か心が熱くなった。

すると、外に目を向けたまま、兵助がいきなり口を開いた。
「ハチはさ……その…俺の…こと、どう思ってる?」

その言葉を聞いた瞬間。
はっ、と小さな息が自分の口から漏れて。
気が付けば抱きしめていた。
思っていたより華奢で小さな身体。すっぽりと自分の身体に埋れた。
「…は、ハチ?」
兵助が、焦ったような声を出す。
それすらも、愛しくて。
「ごめん」
無意識に謝っていた。でも、抱きしめてごめん、ではない。

離さない、離したくない、ごめん。

しばらくそのままでいた。どのくらい時間が過ぎたのか分からなくなった。

でも、腕の中で兵助がぼそり、

「幸せ」

と呟いたのを聞き逃しはしなかった。





貴方と居る幸せ。
貴方と居られる幸せ。
熱を感じ、幸せを感じる幸せ。




fin.

(いつまでこうしてるの?)
(…桜が散るまで?)
(長いよ)
(そうだな(笑))

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