いざ行かん
2012/09/15 08:58

*病み注意

『黒い赤』

雷蔵、と私は消え入りそうな声で呼んだ。暗闇、静寂、布の擦れる音。
雷蔵が振り返る。そして、
「何だい」
と問うた。
足りないんだ、足りないんだ、赤が足りない。呻く様に言うと、雷蔵は黙って細い腕を私に差し出し、
「どうぞ」
と笑った。いつからだろう、血を求めるようになったのは。
苦無を取り出す。大きな傷をつけぬよう、そっとそれを雷蔵の腕に当てる。
じわり、じわりとそれを食い込ませた。
切れるか切れないか、そんな曖昧な境界線で私は一瞬苦無をとめ、そしてすぐにまた力を込める。
柔らかく跳ねた肌。ふわっと、苦無の重さから解き放たれた肌。刃物が食い込んだその肌色には、ほとりと、ふつりと、ぷっつりと、一直線の赤。とろりとした血液は、雷蔵の命を感じさせる。

啜る。飲む。私の口に鉄が広がる。暖かい。温かい。
吸い終わり、最後に雷蔵の傷口をぺろりと舐める。
顔をあげると、優しい顔で微笑む雷蔵がいた。
雷蔵の腕には多数の切り傷。
全て私が、御馳走になった証。
真っ黒な苦無。真っ赤な血。
真っ黒な私の心。真っ赤な私の愛。

ああ、美味である。

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