獅子座との修行


もちろんタオルなんか持ってないし、自室に取りに行けるわけがないので
適当なところに干してあった布を少し拝借する。
後で洗ってお返しします。


「・・・本当に大丈夫かなぁ」



とぼとぼと闘技場へ向かう。
本当はこのまま逃げてしまいたいが、「待っている」といってくれたレグルスをほっぽりだすなどできない。
だが、ど素人の私が黄金聖闘士と組手なんて…軽く想像して、マジで身ぶるいした。
…死なないように頑張らないと。



「…いっちょ頑張りますか!」



ほつれた髪をしっかり後ろに張り付けて、
気合を入れた。




―――




「遅いぞ!」




闘技場に行くと汗を滴らせた美少年・・・もといレグルスがいた。
いつのまにやらあの眩しい鎧は脱ぎ払っていた。
あんな固そうな鎧纏った人と組手をやらなくて済むことにとりあえず一安心した。



「また少し迷っちまって…」
「ふ―ん…。
 まあいいや、やろうぜ!」
「お、おうよ!」


こうして、私の初の体術訓練が始まった。










「動きが鈍すぎだろ!?
 もっと相手の動き見て判断しないと!」
「ハァッ…無茶…ハァッ…言うな!」




組み手をし始めて三十分もたたないうちに、
私は汗だくで、息が上がっていた。
ぐっと肩のあたりを掴まれて、地面に伏せられる。
背中を打って、息が詰まる。

「ぐッ!」
「次!もう一回行くぞ!」


ボロボロの私に比べて、呼吸は全く乱れてないし、汗は一つも掻いていない。
その対比に私は思わず叫んでしまった。



「体力ありすぎだろ!?」
「お前男だろ!?
 何でそんなに体力ないんだよ!」
「今まで普通の生活しててこんなハードなことする機会なんて存在してなかったんだよ!」


てか、普通じゃなくてもこんな痛くて辛いことしてる人中々いないぞ!?



「行くぞ!」
「おう!」



年下の前で弱音なんか吐きたくないから頑張るけど!
その思いから何度もたたきつけられても我慢して挑んだ。
何度負けたかわからなくなったときには、もう日は高く昇っていて、影が真下にあることから昼ごろだとわかった。



「ハァッ…ハアッ…あ、しがつる…。」



あれから二時間くらいずっとやってたらもう立てないくらい疲労してた。
あー、これは明日筋肉痛だな。確実に。



「お前マジで体力ないなー、弱いし」
「そ、その通り過ぎて何も言えない…」


体中傷とあざだらけ。
服も体も汚れていない部分なんてないくらいには砂だらけだった。
…この傷見たら絶対卒倒するだろうな、セージさん。


「でも最初やったよりも全然動きがよくなってる。
 多分、素質はあるんだよ。」
「ハ、ハハハ…。」



素質といわれてもあまりピンとこなかった。
運動音痴で、体育の成績もよかった記憶なんてない。



「休憩にするか。
 …立てる?」


「・・・無理。
 足がけいれんしてて立てない。」



意識してないのに足が痙攣を起こしていて、到底立てそうにない。
どうやって行こうか



「ほらよ。」




何事かと思ったら、レグルスがしゃがんで私に背中を向けていた。


「…これは?」
「自分じゃ立てないんだろ?
 おぶっていくよ」

年下におんぶされる、ということに若干抵抗を感じたがどんなに力を込めても立ちあがれそうにない現実に、私はあきらめてレグルスの首元に手を回した。
年下なのに、自分よりも固くて大きな背中におぶさるとレグルスは重さなんて感じてなさそうに軽々と立ち上がった。



「…ありがとう。」


周りの視線から向けられる好奇の視線は痛いけれど、
体温の高い背中にひっついているとなんだか安心した。


「サナエは軽いなー、筋肉付いてねえし。
 お前本当に男?」
「う、うるさい。
 これからつけるんだよ!」
「ハハ!怒るなって!」


快活に笑っているであろうレグルスの後頭部を見つめる。
…なんか、レグルスって


「太陽みたいだな」


キラキラしてて、凄い羨ましいよ。



「い、いきなり何だよ!」
「え。いや。見てて思っただけだよ?」
「な、な、い、意味不明だよ!!」


「ぅぎゃぁ!?」



投げる様に闘技場の石で出来たベンチみたいなところに下ろされた。
いきなり落とされたせいでお尻が痛い。


「昼飯取ってくるから、ここでまっててくれよ。」
「ありがとう!」


・・・優しいんだね。レグルスって。










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