闘技場の少年



自室に戻った私は、鏡の前でくるりと回る。


「さ〜てと、こんなもんですかね!


三十分後、自分の姿に自分で驚いていた。


「これ、男全開だね。」



長い髪をオールバックにして、後ろで一つに結ぶ。
少年が着るような粗末な訓練服を身につけた。
それは何処からどう見ても少年にしか見えないとおもう!


「胸がないのと童顔が役に立ったね。」


髪が腰辺りまであるのが難点だけど、大して問題はないはず。
この間見たときには髪の毛が長い人もたくさんいたから、気にする人もいないだろう。


「それじゃ!まず聖域探検から!」



―――





「ぅわー、ここ見るの二回目だけど、半端ないなー。」



こそこそと十二宮を下りて向かったのは闘技場。
あまり知人の黄金聖闘士とは会いたくないために、
知り合いのいないここに向かったのだ!


ふははは!なんていう名案!



「…ばれない、よね?」



でも、自分より年下の少年たちを見て、さすがに不安になった。



「…」



闘技場が見える適当なところに腰を下ろし、修行を様子を見る。
・・・・あたしより年下みたいだけど、すごいなあ。



「なあ!あんた!」
「え?」



休憩中だったのか、一人の少年があたしに話しかけてきた。



「初めて見る顔だけど、新人?」
「お、おう!
 まあな!」



出来るだけ声を低くし、ばれないようにする。
だ、大丈夫だよね?




「俺はテンマ!」
「あ、お、俺は、サナエだ!」
「ふぅーん、なんか女みてえな名前だな!」
「し、失礼だな!」



嘘をつくのが気が引けて、本名を言うと図星をつかれて、思わず声が裏返った。




「て…テンマはやっぱ聖闘士になりたいのか!?」



話題をそらすために無理矢理話を変える。




「おう!おれは聖闘士になるのが目標なんだ!」
「へー・・・。すごいんだな。」
「まあなッ!そういうサナエは?」
「お、俺か?俺は、まあ…。」



…男装するのですら渋られたのだから、聖闘士になどなれるわけない。
だって、あたしは女神なのだから。



「・・・・。
 俺、諸事情で聖闘士とかになれないんだよな。」
「え!?本当かよ!?ソレ!」



驚くテンマ。
そりゃそうか。
だったら私は何のためにここにいるんだという感じだし。



「ぁ…あぁ。
 だから、俺は皆の頑張ってる姿しか見られないんだ。」




…サーシャが言っていた気持ちが、何となくわかる。
私は、皆の姿を見ることしかかなわないんだ。




「でも」





―絶対に




「皆にこれ以上、血を流させないようにして見せる」
「え…?」




テンマが、何かを聞こうと口を開いたとき



「おーいっ!
 テンマいつまで休憩してんだよー!」




同い年くらいの少年がテンマの事を呼ぶ。
慌てて立ち上がるテンマ。



「あ、やべ!もう休憩終わりだ!」
「んじゃ、俺ももう行くな」




私も立ち上がり、もと来た道を戻ろうとした。
一通り見れたし、男装が意外とばれないということもわかったので今日は一度戻った方がいいと思った。




「サナエ!」



テンマが、後ろを向いた私を呼びとめる。
振り返ってみれば心なしか、顔が赤い気がする、



「どうかした?」
「い…いや、あのよ!
 また、しゃべりたいから来いよな!」




その言葉に一瞬だけ驚いた。
「また会いたい」といってくれたのが嬉しくて、自然と顔がほころんだ。



「…おう!」



小さな約束をすることを、嬉しくおもった。
友人同士がする、小さくも固い、約束が。




「じゃあ、修行頑張れよ!」
「当たり前だろ!」




テンマが手を振るのを後ろで感じながら、小さく微笑んだ。




やっぱり、短い間でも友達って出来るんだなぁ。
帰る足取りは、とても軽かった






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