悪夢





深い闇のなか。
そこには、あたししかいなかった。


「…。」


それが、夢ってことはなんとなくわかっていた。
なのに目覚めよう、目覚めようと思っていてもなぜか目を覚ますことができない。


「…あ。」


闇の中に、後姿が見えた。
忘れもしない、あの後姿。


「師匠…!?」


金に輝く聖衣をまとう敬愛する師匠の姿。
あたしはそれに追いつこうと走った。



「師匠!待って!」


まるで、泥に使ってしまったかのように体が重い。
その間にも、どんどんと遠くなっていく背中。



「師匠…!
マニゴルド!」



必死に手を伸ばしたが届かない。
師匠の後ろ姿はどんどん遠ざかり…等々見えなくなってしまった。


「マニゴルド…!
 まって…行かないで!」



涙をこぼしながら、しばらく呆然としていた。


「マニ、ゴルド…!」


地面に伏せて泣いていると、今度は近くに誰かの気配を感じた。
ふと顔を上げるとセージ様が立っていた。


「セージ様…!?」


一瞬、のどに何かが詰まった感じがした。
それはどんどんと上に上がって、大粒の涙として出てきた。


「セージ様…!」


懐かしい、その体に抱き付こうとしたがなぜかすり抜けてしまった。


「ぁ…!?」



地面に勢いよく倒れた。
それでも、セージ様に触れたくて起き上がった。



「セージ様…!お願い、待って!」



セージ様は、何事もなかったかのように歩いて行ってしまう。
その法衣に手を伸ばしたが、届かずに空を切る。



「セージ様!」


セージ様の背中までもが、あたしから離れて消えてしまった。


「お願い…行かないで…!
 あたしを………一人にしないでッ!」



誰もいない、虚空の中であたしは叫んだ。
それでも聞こえるのは、自分の嗚咽だけだった。










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