ショータイム!


そのあとも、いろいろ問題を起こしたあたしたちは当然の如くクビ。

「まあ、なんとなく予想はついてたけどね。」

あたしたちに一般的な仕事なんて出来るはずない。
改めて実感してしまった悲しい事実に、ある意味納得してしまった。


「笑い事じゃないだろう」


いや、もはや笑うしかないでしょ。
クビ宣告の後も蒼摩たちがいろいろやったみたいだけど、やっぱだめで…。
にっちもさっちもいかない現状に、行きかう人を見つめながら途方に暮れる。


「なあ、船はどうするんだよ」
「乗せてもらうのはバイトの報酬って約束だ。
 クビじゃあなぁ…。」
「私たちのせいで、余計忙しくなったみたいだし…」
「さて、どうやって海を渡るか。」
「泳いで渡るのは無理だし…。
 空を飛べればいいんだけどね」

というか、ユナならできるんじゃないのかな?
だけど…ユナに負担をかけるのはあんまり気乗りしないなぁ…

ふと、町の人を見ていた蒼摩がつぶやいた。


「気楽でいいよなぁ。マルスのせいで世界が危ないっていうのに…。」
「仕方ないわ。みんなマルスの存在を知らない
んだし…」
「そりゃそうだよなぁ…。
マルスどころか、みんな聖闘士の存在も知らないんだしなぁ…。
 俺たちの苦労も、人知れずってことかぁ…」
「聖域に近い町だったり、縁のある土地だったら、聖闘士はいろいろ世話になれたんだけど…。
 時代が立つにつれて、それを知ってる人も減ってきたんだろうね…。」


それが時代の流れだとしても、命をかけて戦った人たちのことを誰も知らないで行くっていうのは…さみしいな。



「前、島にいたこと沙織さんに聞いたことあるんだ…」
「沙織が?」


光牙は、どうして自分が聖闘士になる修行をしなければならないのかを沙織に聞いた。
沙織は、それはその星の下に生まれたからだといったそうだ。
光牙は、聖闘士になる星のもとに生まれた、と。



「沙織さんの言う通り、俺は聖闘士になる星のもとに生まれてきたんだと思う。
 蒼摩、ユナ、栄斗、ホタルだってそうだ。
 世の中の、同じくらいの年の子は普通の青春を、明るく楽しく過ごしていて。
 …俺たちの生き方は辛くて厳しいものかもしれないけど、だけど、俺たちは聖闘士の星の下で精いっぱい生きていくんだ。」
「……光牙」


…光牙は、時々しっかりしたことを言うよね。
ほんと、その通りだなって思う。


逃げるどころか、振り返ることすら許されない茨の道を、あたしたちは生きなければいけないんだから…。



「実にいい話だが、残念だな。
お前たちはここで死ぬ運命なんだよ!」


しんみりした空気を壊すように、酷いだみ声が混じる。
立ち上がって周囲を警戒すれば、撒いたはずのありんこ火星士たちが現れた。


「ふん!星はまだ流れてないけど?
それでどうしてあたしらが死ぬ運命ってわかるのかしらねえ?」
「火星士!?」

盗み聞きとは、いい度胸してるじゃないかこの野郎!
蟻の癖に!


「うるせえ!今度逃げて見ろ!この町のやつら皆殺しにしてやる!」


「…部隊くんでやってきたと思ったら、今度は人質ですか。
 やることなること外道…というか、小物だね。」
「黙れ小娘!」

呆れたものも言えない。
ほんとうに火星士・・・というよりマルスの部下ってなんなわけ?
性質が悪い。
やれやれ、と首を振るあたしに逆上する蟻んこ火星士。
そんな光景を見て栄斗が頭を抱えた。

「ホタル、お前はいい加減相手を挑発するのをやめろ…。」
「挑発じゃなくて事実だし。」


事実しか言わないですから。
みんなそんなやり取りをしているうちに落ち着いたのが、臨戦態勢をとる。


「やるしかないようだな…。」
「街の人に、なるべく被害がかからないように!」
「ああ!
 ホタル!アリアと町の人たちを!」


「おう!まかせときな!」


あたしは銀に輝く聖衣を纏って、アリアちゃんをできるだけ安全なところに避難させた。


「アント隊、攻撃!」



隊長格らしきデカい蟻の火星士の号令で、蟻の兵士たちがみんなに襲い掛かった。


「うー…。まずいね。
多勢に無勢っていうか…いい感じにやられてるね。」


皆、蟻たちの息を合った攻撃にやられて、かなり傷ついている。
連携を取られると経験の浅い皆だとどうしても不利になる。
少し舐めていたが、蟻ならではの連携の取れた攻勢にあたしは素直に感心してしまった。


「ホタル!皆を、みんなを助けなくていいの!?」
「あたしは、光牙からアリアちゃんと町のみんなを守れとしか言われてないから。
 それ以外のことは自分らで何とかしてもらわないと、これから先やってけないよ?」

「でも…でも!」

アリアちゃんが、心配そうな顔で地に伏す光牙たちを見つめる。
今にも止めに入ってしまいそうな勢いのアリアちゃんに、あたしはその目をしっかり見据えながら言った。

「アリアちゃん。
 あいつらが、あの程度のやつらにやられるような奴らだと思ってんの?」
「!」
「見ててあげなよ、聖闘士の星のもとで生まれたあいつらの戦いぶりってやつをさ!」


あたしはニヤッと笑ってあいつらを見つめる。
それと同時に、四人の小宇宙が高まっていく。
相手が連携を取ってくるなら、こちらも連携を取って倒せばいい。


「さてと、構えておきましょうかね。
 積尸気 鬼蒼焔!」



あたしが、どうゆうわけだか逃げようとしない街の人々の前に青い焔の壁を作った。
これで、あいつらの小宇宙からみんなを守ることができる。


それと同時に、5人の必殺技がさく裂した。



「ぅわあああああああああ!!!!!!!!!」


情けない叫び声をあげて、ありんこ共は海へと突っ込んだ。
それと同時に大きな水柱が上がった。


「ね?
 だから言ったでしょ?」



気持ちの良いくらい素晴らしい勝利に、思わず笑顔になってしまった。



「…うん」


ほぐれたアリアちゃんの表情。
あたしとアリアちゃんが安心したように笑いあってると、後ろから歓声が上がった。



「エ?」

上がった歓声の意味が理解できず、固まるあたしたちにペンションのご老人が拍手しながら近づいてきた。

「君たち素晴らしい!
 実に見事なショーだったよ!」

「はい?」
「私も感動しちゃったわ!」


先ほどまでとは違い上機嫌な様子の奥方に、首を傾げるしかない


「あ、あの、ショーって…?」
「迫力ありすぎてビックらこいた。
 お前さんたち、まさか旅芸人だったとは…。」

「えぇ!?」


「…わァお。」


どうやら、あたしたちの技がすべて大道芸だと勘違いされてしまったようだった。
すごい勘違いのされ方。
あれでも、いろいろ危なかったんですけど…?


「あんな素敵なショーができるなんて!
 またうちでバイトしておくれよ!」

「あ、あの!別にショーとかじゃ!
 …大きな誤解をされてしまった…。」

ユナも斜め上の勘違いに困ってしまっているが、誤解を解くこともできず途方に暮れている。

「…あ、ははは。」


命をかけた戦いが、ショーねえ…。
まあ、一般人から見たらあんな大道芸みたいなのは普通に考えて受け入れられないかぁ…。


「だったら!報酬をいただかないとなぁ…。」


…あ、いつのまにか蒼摩が脅し…じゃなかった、交渉してる。
あいつ、ほんと世渡り上手だよねぇ…。







back
141/70


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -