女神との出会い


「ん…」

もう一度眼を開けたら、今度は天井だった。
だけど、見た事のない天井…。

あたしはどうやら見知らぬ家のベッドに寝かされているらしい。
聖闘士としては、あるまじき失態ってやつだ。

「ここ、は?」
「私の家です。」
「!」

ベッドの横には、女が座っていた。
あたしはその女を見て驚いた。
美しく凛とした桃色の髪の女性。
それは見覚えのある顔だった。

「サーシャ…。
どうして…」

どうして、アテナが此処にいるの?
だって、あたしは神の通り道で死んだ筈なのに…。

「サーシャ?」

女性が首を傾げる。
その仕草を見てドクドクと高まっていた心臓が、水をかけたようにスッと静まった。
サーシャに似ているが、この女性はサーシャではない。
しかし、サーシャに似た…アテナの小宇宙は無関係なものとは思えなかった。




「あなたは、一体何者…?」
「私の名は城戸沙織です」
「サオリ?
 …サーシャじゃ、ないの?」

微かな希望を持って聞いた問いは、
ゆっくりと振られた首で否定された。

「いいえ。
違います。」

わかっていたこととは言え、否定されると辛かった。

「そっか…。
 てっきりサーシャ…アテナかと思ったのに…。」

残念。
そう言おうとした時、サオリの動きが止まっていた。

「やはり、あなたは普通の人じゃありませんね。」
「…アテナを知ってるってことはあんたもそうみたいだね。
 あんたから感じる小宇宙は、あたしが知ってるアテナとそっくりなんだけど?」
「私は今の世のアテナです。」
「あんたが?」

女性の言葉に思わず眉を潜める。
どういう事?
あんたが、アテナ?

「…冗談も大概にしてほしいんだけど」
「冗談ではありません。
 私はアテナです」
 
ガンとして譲らない女性に、あたしは焦る。
誰でもいいから、説明をして欲しかった。


「そこまでいうんだったら、
 だったら、教皇にあわせてくれない?
 教皇…セージ様なら…」

「残念ですが、今聖域には教皇はいません。
もう20年以上前に…。」

「ッ!?
 20年!?」

あたしはガバッと起き上がった。
その瞬間体中に激痛が走って、ベットにまた倒れこんだ。

「無茶をしてはいけません。」
「この程度…問題ない!
 それより!20年前に教皇が死んだってどういうこと!?」

時間が合わない。
ついさっきまで一緒だったセージ様の死が20年前なんて時間が全く合わない。
混乱するあたしを落ち着かせるようにサオリはゆっくりと話しはじめた。

「言葉通りの意味です。
 教皇・シオンはサガの乱のとき…」

だが、その言葉であたしはさらに混乱することとなる。
知らない名前の教皇…いや、その名前はどこかで…?

「…は?
 シオン…?」

聞いたことある名前だなー、って思ったけどすぐに思いだした。
麻呂眉が特徴的な牡羊座の聖闘士。
セージ様の兄・ハクレイの爺の弟子のことか。

って!?


「牡羊座のシオン!?」
「!
 どうして、牡羊座だという事を知っているのですか…。
 いえ、それよりも何故牡羊座という呼び方をしているのですか?」
「だって、あいつは牡羊座じゃんか。
 あの麻呂眉の事でしょ?シオンって。
 懐かしーなァ…あいつ。
 ・・・でも、何で教皇?」

…どういう事?

「…あなたの時代の、天秤座は?」
「天秤座は童虎だよ。
 あいつよく脱ぐんだよねぇ」

まあ、良いんだけどね。どうでも。
…まぁ、年齢が近かったから仲は悪くなかった。

「牡牛座は?」
「アルデバランだけど?」

良い組み手相手だった。
それと同時に良い人だった。
まさに人格者とは彼のことを言うだろう。


「双子座は?」
「デフテロス…っていう名前だったと思う。
 話したことないからよく分からないけど」

確か、数年前前ではアスプロスが双子座だったけれど…
どの道話したことがなかったからあの二人についてはよくわからない。

「蟹座は?」
「マニゴルド!!!
 あたしの師匠さ!
 積尸気の使い手だよ!」

聖闘士の師匠としてはいい奴だったよ!
人間としては、反面教師だったけどな。

「そうですか…。
獅子座は?」
「レグルス。
 若き獅子だよ」


年齢は下だったが、最高位の聖闘士として実力は素晴らしいものだった。
ついでに話すとからかいがいあって明るい良い子だった。


「乙女座は?」

「アスミタ。
 盲目ながらも、素晴らしい聖闘士だ」


盲目でありながら黄金の中でも上位の実力者だった。
何度か修行のため瞑想をさせてもらったのもいい思い出だ。


「射手座の聖闘士は?」
「シジフォスだよ。
 アテナへの忠誠心が高い、正に聖闘士の中の聖闘士だ」

仁徳に溢れた人格者であり、アテナへの忠誠心がとても高い彼は
師匠とはまた違った意味であたしの憧れだった。


「蠍座は?」
「カルディア。
 よく口げんかしてたよ。」

会うたびに下らないことで口論してたなぁー。
切れるとスカニー打ってくるのだけはやめて欲しかった。


「山羊座は?」
「エルシド。
 くそまじめで、面白みのない奴。」

寡黙で、真面目一辺倒。
話しかけても無視されることが多かったが…そのストイックさは見習うべきものだったと思う。


「水瓶座は?」
「デジェル。
 冷静で賢い知の聖闘士だ」

頭が悪いあたしに、いろいろ勉強を教えてくれた。
眼鏡が似合いすぎて勉強どころじゃなかったけど。

「魚座は?」
「アルバフィカ。
 美しく気高い人だった」

黄金の聖衣を着た姿は眩しすぎて目が開けらんないほど美しいものだった。
そして毒の血で誰かを傷つけないように生きる、優しい人でもあった。

ってか、何でそんなこと聞いてくるの?
聞かれたからついつい12宮の人々全部いっちゃったけど。


「あのさ、これがどうかしたわけ?」


大体、なんで聞いてきたわけ?

「いえ…。
それより、最後に聞きますけどあなたの時代の、教皇の名前は?」

「セージ様だよ。
 あたしの間接的な師匠。
 積尸気の使い手で、マニゴルドの師匠だけど?」


本当にどうして?
どうしてこんなこと聞いてくるの?
まるで、確認してくるみたいに…。


サオリは一呼吸置くと、しっかりとした口調でこう切り出した。

「落ち着いて聞いて下さいね。
あなたの言ってもらった聖闘士は、今の世の聖闘士ではありません。」

「・・・え?」


どういう事?
今の世の聖闘士じゃない?


「その聖闘士は、今から約200年前の聖戦で散った聖闘士の名前です。」
「200年…!?」

200年前?
散った聖闘士?

「童虎とシオン…この二人は前の聖戦で…。」
「……嘘だ。
 だって、あたしは…」


セージ様やマニゴルドからは積尸気の技を伝授してもらったし、レグルスとは体を鍛えあった。
デジェルからは学校へ行ったこと無いあたしに勉強を教えてもらったし、
シジフォスとアルデバランとは良く話したし、カルディアとは喧嘩しまくった。
童虎とは一緒にいたずらを仕掛けたり、エルシドをにはよく無言で怒られた。
アルバフィカを遠目で眺めたり、アスミタと一緒に座禅とやらを組んで精神統一をしたし。
デフテロスとは、交流はなかったとはいえ聖闘士としての絆は作れてたと思うし、シオンとは師匠談義で燃えたりもした。
それから、それから…。

「受け止めきれないと思いますが、事実です。
 これは私の想像なのですが、あなたは何かが原因で200年という時を移動してしまったのではないでしょうか?」

「え?」

「何か、原因だと思われることはありませんか?」


原因、なのか知らないけど。
こっちに来た理由としてはあたしが死んだから、としか言いようがないな。


「…あたしは、一度死にました。
 我が師・マニゴルドのあとを追って、
 神の通り道で…」

「そうですか…。
 もしかしたら、そこでなんらかのはずみであなたがここに来てしまったのかもしれませんね。」
「そんな…。」

マニゴルドのあとを追って、死にたかったのに。
セージ様や、皆と一緒にいたかったのに。


「悲しまないでください。
 あなたが此処に来たのは、何か理由があるはずです。」
「アテナ…。」

凛として語るその姿はサーシャに、そっくりだ。
姿も、優しくて力強い光のような小宇宙も。
貴方が、本当にアテナだというのであればあたしがすべきことはただ一つだ。


「…我が名は南冠座のホタル。
 以後、よろしくお願いします。アテナよ」
「ええ、よろしくお願いします。」

あたしは、深深とアテナに頭を下げた。
感謝と誠意を見せるために。


(マニゴルド、セージ様、皆。
そっちに行くのは、もう少し後になりそうです。)











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