風の脅威


「ゆっくり寝たからかな?
大分体の痛みが引いていたなァ…。」


固まった体を伸ばして、体を解す。
昨日に比べて体が楽になっていた。


「無茶は禁物よ。
まだ完全にはあなたの体は回復していないんだから。」
「あはは―。
 大丈夫だよ。
 あたし結構丈夫だしぃ―。」


夜が明けて、あたし達三人は街を散策していた。
綺麗な町並みは昔よった街にどこか似ていた。
なんか、綺麗な所だなあ…。


カァ―ン  カァ―ン  カァ―ン

時間を付け気鐘が鳴り響く。
アリアちゃんが興味深そうに空を見あげた。

「あ…。」
「教会よ。
 鐘を鳴らして時を告げるの。」
「いいね、のどかで…。」

こんなふうに、穏やかに時を過ごすのはすごい久しぶりだ…。


「行ってみる?」
「あ、あたしいきたーい!」
「ホタルじゃないわよ!」

あ、怒られちった。






三人で境界まで足を運ぶと、その美しい内装に目を奪われた。
あたしが信仰していない神の子を描いたステンドガラスからは朝日が差し込み、煌びやかだった。

「綺麗!」
「あ…。」

綺麗な教会。
中々立派なもんだねぇ…。

「アリア…見るものすべてが新鮮なのね。」
「マルスの野郎が、ずっと監禁してたんでしょ。
 まさに、外道だね。」

あのくらいの年頃だったら、もっと世界を見ててもいいのに…。
そんな権利すらも、奪うなんて…。


「綺麗…。」
「ええ。」
「めっちゃくちゃ綺麗だね!
 アリアちゃん!」


アリアちゃんに笑いかけようとした時、
小宇宙を感じた。

光牙たちじゃない、殺気のこもった小宇宙!

「この小宇宙は!?
 光牙たちじゃない!」
「どうする、ユナ!」

あたしが感知したのは、聖闘士が二人と、火星士が一人。
聖闘士の方は、白銀レベルで、火星士の方はそれ以上の小宇宙…。

これは、まずいかもしれないな。

「ユナ!?」

ユナは、アリアちゃんを部屋の中に押し込んだ。
そして、アリアちゃんをなだめる。

「昨日、私はいったわよね。
 光牙に言われたから守るって・・・。
 だけど今は違う。
 私があなたを守りたい!」
「あたしは、光牙とはなぁ―んも約束なんてしてないけど。
 マルスの野郎に可愛いアリアちゃんを渡すのは許せないんで!
 大丈夫!
 表の奴らくらい、軽くしばいてやりますから!」
「大丈夫!すぐに戻るから!
 私達を信じて!」

そう言いつけて、扉を閉めた。
ユナと、頷き合ってあたし達は外に出た。
教会を出た瞬間に、あたしは聖衣をまとった。


「やっぱり、三人か…。」

教会から離れた広場。
そこには三人の人間が立っていた。
勘が当たったね。
・・・なァーんて言ってる暇もないか。

「見つけたぞ、反逆者共め。
 我が名ソニア。
 ホーネットの高位火星士・ソニアだ。」
「俺は烏座。
 クロウのヨハンだ。」
「猟犬座。
 ハウンドのミゲルだ。」

「高位火星士と白銀聖闘士!」


「予想通りだったなァ。
うれしかないけど。」


…さて、三人一気に冥土におくれるかな?
無理だな。そんなこと出来るほど、小宇宙のこってないし。


「アテナはどこ?」
「知らないわ。
 もし知っててもあなたたちには教えない!」
「あんたらに教えるくらいだったら、どぶに捨ててやるよ。」

「青銅の分際で無礼な!」
「ユナはともかく、あたしは生まれたときから無礼なんで!」

ワンころ星座にむかって、アッカンベーをしてやる。
プ。めっちゃくちゃ切れてやんの!

「まあいい。
 その体できっちり答えさせてやろう。
 ヨハン、ミゲル。
 手を出すな。こいつらは、私の獲物だ。」
「獲物に、食いちぎられないようにするんだな。」

あたしがそう言った時、隣のユナが動いた。

「ブラストタイフーン!」

突風がソニアとか言う女に襲い掛かるが、女は風を避ける。

「ユナ!
 危ない!」
「ッ!」


一瞬でユナの後ろに回り込んで蹴りを喰らわせた。
だてに、高位火星士ってわけじゃないみたいだね。

「ホーネットフィンガー!」
「ユナ!」


間に合わない!


「あぁあああ!!」

技を直撃して倒れるユナ。
アイツ、強い!



「さあ、アテナは何処だ?」

倒れたユナの頭を踏みつけて問いかけるソニアに
ユナは気丈にも睨みつけた。


「いったでしょ。
あなたには教えないって。
グァア!」

更にユナを踏みつけた女が指に小宇宙を溜める。
あれは、まずい!

「よかろう。
 とどめだ。」
「ひと無視してんじゃねえよ!
 積尸気鬼蒼焔放った蒼い炎に驚き、ユナから離れる。


「貴様…」
「あたしをただの青銅だと思ってると、火傷するよ?」
「よかろう。
 貴様もこいつと同じ目に会わせてやる…。」
「やれるもんなら、ね。」

人魂が、一気に燃え盛る。
不規則に揺れて燃える炎はあたしにとってはなじみのモノだけど、
見慣れないものからしたら不気味なものだろう。
互いに技を放とうとした、その時だった。

「ソニア様。
 マルス様がお呼びです。
 至急バベルにお戻りください」

下級火星士らしきものが間に割って入る
ソニアとかいう女も初耳だったのか、仮面の下で不愉快そうに顔を歪めたのが分かった。

「なに?」
「本日マルス様よりすべての聖闘士に声明を発表されます。
 その折、ソニア様にはおそばにつかれるようにとのことです。」
「…残念だな。
 お前らは私に殺されるという名誉を受け損ねた。」

その言葉に、思わず笑いが漏れる。


「フッ!
 馬鹿言っちゃいけないよ。
 あの世で生前の名誉なんて意味をなさない。
 冥界にあるのは、おびただしい数の亡者どもと、地獄だけだ。
 それに、あたしはお前に殺されたりしないから。」

お前らに殺されるくらいなら、舌を噛み切って自害した方がましだ。


「…ヨハン、ミゲル。
後は任せる。
必ずアテナを探し出すのだ。」
「ハッ」


「待て!」



この声は…。


「とうとう見つけたぜ…親父の仇を!」
「蒼摩!」


怒りと憎悪の顔で立っていたのは、蒼真だった。
親父の仇…?
あの女火星士が?

「待て!」

だが女火星士はそんな蒼摩など視界に入らないといわんばかりに姿を消した。

「蒼摩!
 突っ走るな!」


あの女を追っていこうとする蒼摩を、白銀聖闘士が止める。


「貴様、ソニア様に何の用だ。」
「あの女は俺の親父を殺した!
 お前と同じ、白銀聖闘士だった親父を!」
「仇打ちという訳か…。
 だが、反逆者のたわごとを鵜呑みにするほど我らは甘くない。」
「違うわ!
 私達は反逆者じゃない!
 反逆者はマルスの方よ!
 私達は見たのよ、バベルの塔で聖闘士たちが小宇宙を吸い取られているのを!」
「どうして奴らの言う事を信じるんだよ!
 聖闘士なら敵じゃなく、俺らの言う事を信じろ!」

「…理由があるみたいね。
 そちらさんはそちらさんなりの。」


どんな理由があろうと、あたしはこいつらを許す気はまったくないけどな。

「確かに、ソニア様も大教皇マルス様も聖闘士ではない。
 だが、黄金聖闘士がほとんどいない今。
 この世界を守るためにはあの方たちの力がいるのだ。


 アテナを守る気持ちがあるのなら、聖闘士でなくても心は聖闘士なのだ!」


「戯言を…抜かしてんじゃねえよ!」


アテナを守る?
んな訳ないだろ!?
てめえらは、騙されてるだけだ!


「分からずや…。」
「もう戦うしかないみたいだな…。」
「ミゲル。
 ここは俺一人に任せてもらおう。」


烏座の聖闘士が猟犬座の聖闘士を止める。
不服そうに顔を歪めた猟犬座だったが、素直に一歩引いた。

「ッチ…。」


相手も、どうやらやる気みたいだ…。
こうなったら、こっちもやるしかないな!


「さあ!
 来るがいい。
 お前たちの信念。
 本物ならばこの白銀聖衣打ち破れるやもしれん。」

「いわれなくても!」
「やってやるぜ!」

突撃する二人。
慌てて止めようとしたが、もう遅い。

「あ。
 ちょっと!」

だからって考えなしに突っ込んだらだめだしょうがぁぁ!!


「ウィンド ジャマー!」

ユナが放った突風は、烏座に届く前に軌道を変えた。

「曲がった!?」
「!
 二人とも、よけて!」

だけど、もう遅かった。
アイツの手から放たれた風の技は二人に直撃した。

「どうした、その程度か。」


なるほど、相手の技を跳ね返す技か。
こりゃ、うかつに技を放てないな…。


「これが、白銀聖闘士の力・・ッ!」
「格が違いすぎる…。」

「泣き言言うのは、早いよお二人さん!
 それよりも、早く・・・ッ」


構えろ。
そう言おうとした時、風の小宇宙がアイツに溜まっていうのを感じた。


「ウィンド・トリガー!」


タ、竜巻ィイ!!??
ぅそだろォオオぉ!?


「キャアァァア!」
「ゥワァアァア!」
「ノゥワァァアォォオオ!!」


突風に体を巻き込まれて、ぐるぐるとまわる。
め、め、目が回るうぅ!!??
ギャァアアア!


「ぁぐ!?」

地面にたたきつけられたあたしは、
目がちかちかしてたつどころの話じゃなかった。
てか、回りすぎて世界がおかしい…。


「気…気持ち悪い……頭ががんがんするぅ…。」
「あんなの、くらって、そんな感想が出せる…お前がおかしいんだよ。」

そんなこと言われたって、その通りなんだもの。
立ち上がろうにも視界が回って立つことすらできない。


「ぐぇえ…。」
「ぅ…ぐ…まだまだぁ…。
 これからだぁぁぁ!!」

「!」

蒼摩の小宇宙が燃えた。
あんな元気があるなんて、タフだな…。
…負けて、られないね!

「積尸気 鬼蒼焔!」
「ライオネット バーニング・ファイヤー!」


青と赤の焔が、あいつに向かって飛んでいく。


「ウィンド ジャマー!」
「ぅわぁあああ!」
「のぅわほぉおお!」


攻撃がそらされた上に、
風の技を思いっきり喰らって吹っ飛んだ。
めっちゃくちゃ痛い!

「ィってぇえ…。」


あたしは、なんとか受身がとれたから衝撃を受け流せたけど、
蒼摩はもろに食らったから大分やばいかもしれないな…。


「蒼摩ッ・・・・ホタルッ・・・・」
「あたしは大丈夫だよ・・・・!」

あたしの事なんかより、ユナの方が心配だ。
あたしよりもボロボロだし…。


「まだ、やる気か?」
「当たり前でしょっ!
 私は…わたしは、嘘つきにだけにはなりたくないから!」
「ユナ…。」


アリアとの約束…。
そうだね、約束は死んでも守らないとね…。


「ならば、これでしまいだ。」


繰り出された竜巻。
あたしは、空に漂う魂を呼び寄せた。



「積尸気 魂葬ッ!?」




あたしが竜巻を相殺させる前に、まばゆい光の小宇宙が、竜巻を壊した。


この、小宇宙は…。



「光牙!」


やっぱりお前か!


「よ。元気にしてたか、ユナ。」
「いいとこどりとは、いい度胸してるなな、おい!」
「ワリいワリい。」
「まあ、良いけどね…。」

属性まともに使えないあたしじゃ、さっきのあれを相殺できたか分かんないし…。

「たく、おせえよ。」






back
141/41


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -