望み



その夜、あたしと光牙は湖のほとりにいた。
というか、あたしが勝手についてきただけだけど。
属性を出そうと頑張る光牙を石に腰掛けて見守る。

「ねぇー、もう消灯時間過ぎてるからねないと怒られるよぉ〜?」

「うっさいな。
お前一人で帰ってればいいだろ?
大体お前と俺は部屋違うじゃねえかよ!
何でここにいるんだよ!」
「単純かつ明快な光牙君なら、一人で修行してるかと思って。
あんた一人だけ、先にいくのは癪でしょ?
でも、やるのはめんどくさいから見てるだけにしようと思って。」
「何だ、そりゃ…。」
「いいからいいから、あたしの事は気にしないでやってなって。」


見てるだけで、結構楽しいものだし。
てか、やるよりも見てる方が好きだったりするからな。


「…体の隅々にまで意識を集中させ、細胞の一つ一つにまで感覚を研ぎ澄まし…広めた式を一つにまとめて…
一気に爆発させる!!」

グッと突きだした拳には何の属性も出ていなかった。

「なにも出ないね。
 やっぱ、危機的状況じゃなきゃでないんじゃない?」
「っぐ…」

図星をつかれた光牙に、考察を立てる。
光牙の場合、修行よりもぶっつけ本番はに見えるからいっそのこと積尸気にまでおくってみて危機的状況にしてみよっかな?


「頑張ってるね」

突然聞こえた第三者の声に、あたしたちはそちらを向く。
見れば龍峰君がにこにこと笑いながら立っていた

「龍峰…」
「どうしたの?眠れないとか?」
「いや、そういうわけじゃないから大丈夫」

ならいいけど…夜遅くまで起きてると、体に悪いよ。
体弱いなら、早く寝てないと。

「此処を出ていくのはやめたの?」

問いかけた龍峰君に光牙が頷いた。

「早く属性をバンバン使えるようになりたいからな」
「それ使えなきゃ、何もできないもんね」
「だいじょうぶ。
 君の輝きはまだわずかだけど、強い光をもってるのは確かだよ。
 南冠座も、とても強い力を持ってるし。」
「ありがと。
 属性の先輩からそう言われると、嬉しいよ。」


そう言う風に言ってもらえると自分に、自信が持ててくるよ。

「っげほ!げほげほ!!」

突然むせ返った龍峰君に慌ててあたしたちは駆け寄る。
苦しそうな呼吸音。
ゆっくり背中をさすり、呼吸を落ち着かせる。


「!
 大丈夫か!?」
「夜風は体に悪いよ!
 早く戻った方がいいんじゃない?」
「あ、ああ。
 大丈夫だよ。久しぶりの登校だったし、疲れてるのかなあ」

・・・・だったらここにいないで早く寝なさい。

「つーかよう。
 そんなに体弱いのにどうして聖闘士になんかなろうとしているんだ?」
「こら、失礼だぞ。その言い方」

「父さんを…元に戻すためさ。」


父さんって、蒼摩がいってた紫龍って人?
どこか悪いの?

「父さんは僕が幼いころ戦いで、すべての感覚…五感を失った。」

乙女座の技をくらったの?
確かそんなような技があった気がしたような…。

「そんなっ・・・・」
「それが聖闘士の戦いさ!」
「生と死だけが戦いじゃない。
 失うものは、命だけじゃないのが聖闘士の戦いだよ。」

今思うと、過酷だよね。
聖闘士は、どうしてこんなにつらいんだろうか?

「で、でもお前オヤジに修行つけてもらったんだろ?」
「うん。そうだよ・・・。
 父さんとは小宇宙で通じ合える。
 父さんの小宇宙が僕の小宇宙を引き出し、そして、育ててくれた」

「へえ…。
 小宇宙って便利なんだな。」
「それだけじゃないよ。
 父さんは前に小宇宙を高めて失った視力を取り戻したことがあるんだって。」
「そんなことも出来るのか!?」
「他にも、小宇宙で色んなこと出来るんだよねぇ。」

そう考えたら、無敵だよね。
積尸気を通れちゃったり…。
うん、すごいな。

「うん。
だから僕の小宇宙を高めれることができれば……きっと、父さんのことも元に戻すことができる。
僕はそう、信じているんだ。」


……。
信じてる、かぁ。
凄いなその年齢で、そんなことが言えるなんて。
あたしは絶対言えないなあ…。


「そのためにも、僕は強い小宇宙を手に入れなければ。」


その意気なら、絶対強くなれると思う。
才能だって、あるんだし!


「あ、ごめん!
 ねえ、君らは何故聖闘士に?」
「あ、ああ。
 俺は・・・・助けたい人がいるんだ。
 だから、強くならないとッ!
 強くなって…沙織さんを助けださないと!」


「あたしも、今はそんな感じかな?
 沙織を助け出すっていうのが、いまのあたしの聖闘士としての存在意義だし」


過去は、ちがうけどね。
なんておどけて言おうとしたとき、ハッと誰かの気配を感じた。
バッと振り返ると、背の高い人影があった。


「いけませんなあ。門限を過ぎた外出は。」


「!
 ゲオルゲス先生!」




「出たな…インテリ教師!」



「ああ、そうなのか。
わりい。」




「だから。その口のきき方はやめたまえ!」




あ、それあたしにも言ってる?





「全く、龍峰くんまでそそのかして。」




「はあ!?」




何言ってんだ!?このクソ教師!!






「ええ!?俺は別に…。」




「言い訳は無用です。
三人には、罰を与えなければなりませんねえ。
停学か…。」




「…。」






今すぐこいつを積尸気に送っちゃえば、学校にはばれないかな?
・・・いや、ばれるか。






「僕とホタルさんは、彼が外に出たのを見て止めに来ただけです。」





「え…?」





龍峰…?
なにいってるの?
あたし、別に止めにきてなんてないよ?





「彼は今朝も学校を抜け出そうとしていたので…。」




「おいっ!?」



「なんで!?」




何でそれいっちゃうの!?
ばれたら停学どころか、退学…。
それどころか、此処がもしも聖域と同じだったら死罪だよ!?



「ほう、それはゆゆしき問題ですねぇ。
ペガサス。
許可なく校外を出た罰は退学処分です。」





た、退学!?
あ、でもよかった…。
死罪とかだったらマジでこの二人積尸気に送るところだった…。




だけど…。





「ッ!
龍峰!お前ふざけんなよ!」




「光牙!
手を出しちゃダメ!」






どうしてあんなこと言ったのかわからんけど、
さっきまでの龍峰からは敵意なんて感じなかった。
それに、あたしのこともかばってくれたし何か意味があるんだと思う!





「先生。
彼のせいで僕とホタルさんまで罰を受けるのは心外なんです。
どうでしょう、一つばんかいのチャンスをくれませんか?」






やっぱり、何かを考えてたか。
でもそれが、何なのか…。






「というと?」





「彼との決闘の許可を。」




「はあ!?」





決闘!?
光牙が!?






「かった方が罰則免除。」



「くくく・・・面白い。
ペガサス対龍座か…。」





あ、よかった。
あたしはそこに含まれてないんだね。






「お前!どういうつもりだよ!」





「僕は、停学は困るんだ。
休んでる暇は、ないのでね。」






停学は、困る…。
じゃあ何で、ここにいた訳?
見つかる危険性だって分かってたはずなのに…。
…龍峰は、いったい何を考えてる訳?













back
141/23


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -