「…?」 ゆっくりと目が覚めた。 瞼を開ければ岩場と空が見えた。 「…ぇ、ここ…どこ?」 あたりを見渡せば宙に浮く12宮と天空を燃やす時計板。 自分はどうやら宮と宮をつなぐ通路の岩場にもたれかかって気を失っていたようだ。 だが、眠っていた理由とここにいる理由がさっぱりわからない。 「頭いったい…体いたい……なにがあったんだっけ…?」 ズキズキと痛む頭を押さえながら思い返そうとする。 霧がかかったようにかすむ頭でははっきり思い出すことが難しい。 だが、いくつか思い出せることがあった。 「そう、だ。 あたし…牛野郎に技食らったんだった」 牡牛座の黄金聖闘士と戦い、ユナたちもろとも技を食らったことは覚えている。 直前に魂葬破を出して相殺しようとしたが…この体の痛みから言って全くできなかったらしい。 だがそれならばなぜこんなところにいるのだろうか。 立ち上がって通路から下を覗き込めば三つの宮。 姿かたちは異なるが、十二宮の順序を忘れるわけがない。 「マークとか見えないけど…一番下が白羊宮だからあれが金牛宮だよね。 その上は双子宮だから…、もしかして…」 パッと上を見上げる。 少し離れた場所に見える宮。 かすかに見えるマークを自分が忘れるわけがない。見間違えるわけがない。 「…巨蟹宮」 呆然と見上げるその宮は、記憶にある形のままだった。 だがそこから感じる陰湿な魂と闇の気配はかつてのまま…いや、かつて以上に悪かった。 「おいおい、今の蟹座は掃除もできないのかよ。 困ったもんだねぇ」 心の余裕を保つためにお茶らけて見せるが、上手く口角が上がらない。 バクバクと心臓が高鳴り喉が異常に乾いた。 進まなければいけないのはわかっているのに、震えて足が前に進まない。 …進むことが、できなかった。 「…いかなきゃ、だって、早くいかないと…皆が、ユナが…」 ユナの小宇宙が巨蟹宮から流れていることはわかっていた。 頭でわかっていても、根が生えたように動くことができなかった。 ギリッと血が滴るくらい強く手を握るが、痛みはどこか遠くに感じた。 ただ上を見上げて呆然としていた時だった。 悍ましいほどの邪悪な、それでいてとても馴染みのある小宇宙の流れが巨蟹宮から立ち上った。 それと同時に感じたユナの小宇宙の消失。 それが意味するものは、一つしかなかった。 「ッ、〜〜〜!」 気が付いたら、駆け出していた。 もはやそこにはもう躊躇いも逡巡はなかった。 ただユナのために自分はもう駆け出していた。 ← × back 141/141 |