願うこと


ユナははっと目が覚めた。
頭を強く打ったかのように痛む頭を押さえながらゆっくりと起き上がるとそこは見知らぬ場所だった。

「ぅ、ぅう…ッ、こ、こは…?」


若干揺れる視界をあたりに向けると、自分と少し離れた場所に倒れている見知った姿を見つけた。
ユナはその姿に息をのんだ。

「ホタル!?大丈夫!?」

銀に輝く聖衣と髪をもつ仲間が力なくうつぶせで倒れている。
慌てて駆け寄って彼女を軽く揺さぶれば、小さくうめく声が聞こえた。
とりあえず無事に息があることにたまっていた息を吐くが、どうも様子がおかしかった。
青ざめた顔で呻く彼女は魘されているようだった。

「ぅう…ッ、…た…」

「どうしたの、ホタル。
 苦しいの?」

ぼろぼろの体を仰向けにし、強く揺さぶるがそれでも目が覚める様子はない。
むしろより苦しそうに魘される仲間にユナはどうしていいかわからなかった。

「…な、で…」

「?」

「…あ、た…は…こ、こに…ぅ…う」

「…」


一筋の涙がホタルから零れ落ちる。
それは今まで見てきた涙の中で一番悲痛な色を持っていた。

「ホタル…」

なんとなくだがユナは察していた。
彼女が自分たちとは違うものを見てきたのだと。
自分たちとはまた違う壮絶な道だったことを。
彼女はその道の中でたくさんのものを失ってきたことを。
失うことを恐れ続け、ユナにはわからない何かに苛まれ続け足掻きつづける臆病で…とても優しい子であることを。

ユナはそんな優しい少女の手を握った。
小刻みに震える冷たい手は、少し時間をかけてユナの熱い体温が移る。

「…待ってて。必ずまたここに戻るわ。
 あなたがもう戦わなくてもいいように。
 あなたがもう苦しまなくていいように、私が…私たちが全部終わらせて見せる」

ユナはホタルの体を抱き上げて岩場へともたれ掛からせる。
彼女を苛んでいた震えは少しだけ、おさまっていた。


「全部が終わったら、あなたの口からきかせてほしいわ。
 あなたを苦しめる何かを…私たちも一緒に背負わせて」


そっと流れる指で涙をぬぐう。
そうしてユナは駆け出して行った。
目指す場所は真上にある宮。

光牙を、ホタルを守るために彼女は駆け出していった。







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