負けず嫌い




作戦としては栄斗が影分身をして、かく乱させてくれる隙にあたしたちが出せる本気の技を全方位であの牛野郎にぶつけるというシンプルなもの。
・・・正直、それでかく乱できるとも、あいつをひと泡吹かせるのも難しいかもしれない。
でも、策がないのもまた事実。
ここは、やるしかない!





「はぁあぁぁア!!!!」






あたしたちに全方位囲まれているにもかかわらず相変わらず、腕を組んで仁王立ちの牡牛座。
くっそ、この余裕、何かあたしが修行してるときのマニゴルドっぽくていやだな!







「所詮、この程度か…がっかりしたぜ」



「ッやば」



つまらなさそうな牡牛座の声とは裏腹に高まる小宇宙。
この感じ、やばい!
空中で受け身を取ろうと両手を前に掲げた、その瞬間に中央で立っていた牡牛座のコスモは黄金の閃光となった。


「グレーテスト ホーンッ!」

「あぁああぁああっ!!!??」



黄金の閃光があたしたちを飲み込み、高純度の小宇宙が体中に嵐のように駆け抜ける。
視界が白くなるどころか、意識が一瞬で飲み込まれそうなほどの攻撃になすすべなく、あたしたちは地面にたたきつけられた。



「こいつがゴールドの輝きってやつだ」



むかつくけど、牡牛座の言うとおりだ。
セブンセンシスを目覚めていないあたしたちでは、到底太刀打ちできない小宇宙の輝き!


「っ…くっそ…」


「ハッハッハッハッ!
お前ら、なんで俺がこんなに強いのかわかるか?
それは、強さを追求し続けてきたからだ」


地面に這いつくばるあたしたちを見て、笑っている牡牛座が語りだしたのは彼自身の過去。
最低の町で生まれて、ごろつきどもに生死を奪われかけて、そいつらを骨を砕く音に魅了され、戦いに明け暮れた哀れな男の半生。
心も骨も砕くことに執心した異常者の言葉。
その音が聞きたいがために聖闘士に戦いを挑み、山羊座の黄金聖闘士に導かれ出会ったマルスに自分自身の心を折られ、力ことが正義と信じ、黄金聖闘士となった男の人生。


「おい!お前たち!
お前たちはどうなんだ!
俺を平伏せさせるだけの力は持っていないのか!?
俺の、俺の骨を折るだけの力をお前たちは持っていないのか!?

どうなんだ!?ゴラァッ!?」


そう叫ぶ牡牛座に、心どころか魂に焼き付いた反骨精神が刺激される。
ふざけるのも大概にしとけよ、牛野郎…!?


「わ、私たちは…まだ、負けたわけじゃない!」

「あぁ!あきらめない限り、負けたことには絶対ならない!」

「お前は確かに強い!」

「だけど、僕たちはあきらめるわけにはいかないんだ!」

「私たちはこの世界を守る!どんな手を使っても!」

ユナと蒼磨、栄斗に龍峰が立ちあがる。
そうだ、あたしたちはこんなところで負けるわけにはいかない。
負けて、たまるか!

「力に負けたやつに、力云々言われる筋合いなんて甚だないんだよ!」


「何故だ?なぜこの世界を守る必要がある?
そんなことできる力もねえくせに、なぜ立ってくる」

理解できないという風に訪ねてくる牡牛座に、あたしはあきれ半分、同意半分で牡牛座を見てしまった。
それすらも理解できないで黄金聖闘士名乗ってる哀れさと、あたしも理解しきれていない部分もあるから。


―世界に本当に救う価値があるのか、あたし自身もわからない。

ぐっと言葉が詰まったあたしとは正反対に、ユナは真っすぐとした瞳で牡牛座を見据えた。


「この世界は、この世界は、私たちが大切に思っている人たちが生きてきた世界だから。
大切な人が守り、守ろうとした世界だから。
あなたにはわからない」


その言葉に、あたしの脳裏でいろんな人の姿が浮かんだ。
死もいとわずに戦った勇敢な人たちの背中。
たとえ足がもがれようが、塵芥呼ばわりされようが立ち向かった偉大な師匠の姿。
命を懸けて弟子を守ろうとした優しい教皇の姿。

そして、可憐で小さく、守らなければいけなかった女神さまの姿…。


「でも私たちにはこの世界を守る意味がある!
…守らなければならない、理由がある」


ユナの涙をこらえながら叫ぶ姿に、あたしの背中は自然と伸びた。
そうだ、あきらめるわけにはいかない。
この世界は、過去から現在までたくさんの人たちが命を懸けて守ってきた世界なのだから!


「だから、絶対にあきらめるわけにはいかない!」

「フンっ!いいねぇ、そのしぶとさ。
それでこそ折りがいがあるってもんだ。
お前たちの、身も心もな」

「あなたに何を言おうと無駄よ。
何をされようが、私たちの心は決して折れない!」

「はぁあぁああっ!!」


ユナの言葉を皮切りに飛びかかったあたしたちを、牡牛座は余裕の構えで待ち受ける。
そして黄金の輝きがあたり一面に広がった。


「グレーテスト ホーンッ!!!」

「ぅああぁああぁぁ!!??」


衝撃とともに、地面にたたきつけられるあたしたち。
やっば、体中が言うこと聞かない…これマジで死ぬんじゃないかな…。


「聞こえねえなあ。
強情な奴らだな。
弱いくせに心だけは折れねえってか。
とっとと折れちまえば楽になるってものを
ならば、まずはお前たちの体の骨の折れる音で楽しむとするか」


弱いって言葉は否定しない。できるわけがない。
だってあたしは弱いから。大切なものを一度たりとも守れたことがない、弱い人間だから。
だけど、だけど…!


「やってみろよ、牛が…!
体中の骨が折れようとも、心だけは折れないからな…!」


心まで折れちゃ、聖闘士名乗れるわけないだろうが!
その意地だけであたしは立ちあがる。
ガクガクと震える膝を抑えつけて、牡牛座を睨む。


「ほお、まだ立ちあがるか」

「当たり前だろうが!
あたしを沈めたきゃ、骨でも心でもない。その魂を折って見せな!」


そうだ。魂が折れない限り何度だって立ちあがって見せる。
肉体が限界だろうが、関係ない!
ふらつく体で魂を顕現させようとしたとき、土ぼこりから何かが動く気配がした。


「!
お前は、まだ折れていなかったのか」

「ぇ…?」


土埃の奥から、白銀の聖衣が輝く。
光牙が立ちあがり、牡牛座と対峙していた。


「光牙!」

「どうした、くたばりぞこない。
まだ、折られたりないのかい?」


満身創痍の光牙は立ち上がるのすらやっとといったようにふらついていたが、
その言葉を紡いでいく。
覚悟を決めた、男の言葉。


「前に進むんだ。
俺たちはこんなところで倒れちゃいけないんだ。
たくさんの人が、俺の目の前で、俺の手から零れ落ちていった。
かけがえのない、希望と約束が…!」


辛く静かな光牙の声。
これまでの戦いで守り切れなかったという後悔の念がひしひしと伝わる。


「だけど、前へ進むんだ。
俺は、俺たち、失っても失っても前へ進まなきゃいけないんだ…!」


覚束ない足取りで、牡牛座へと歩いて行く光牙。
重く、一歩一歩は頼りない歩み。

「光牙…」

危うさすら感じる歩みの中、光牙の目に光が宿る。



「前へ…!前へ、進む!」



そしてその輝きは、小宇宙の爆発となって体現した。
いままでの輝きとは比べ物にならない小宇宙に、息を飲む。



「光牙、あんた、まさか…!」


「ハッハッハッ!
良いぜ!ギトギトのボロボロにしてやるぜ!」

「いくぜ!」


牡牛座と天馬座。二人が激しくぶつかり合う。
今までの光牙とは比べ物にならないくらい切れの良い動きは牡牛座と互角にやり合えるほどだった。


「ペガサス 閃光拳!」

「この程度かよ!」


闘ううちに輝きを増す光牙に、牡牛座も徐々に興が乗ってきたのだろう。
小宇宙の流れが変わってきていた。
そしてその薄青い瞳がユナ達をとらえたのを見てゾクッと嫌な予感がした。
それを光牙も感じ取ったらしく、ユナ達を庇うように前へ出た。


「!
させるか!」

「ぶっとべや!」

「おぉおぉ!
ペガサス!流星拳ーーッ!」


グレートホーンとペガサス流星拳がぶつかり合う。
黄金の輝きと会おう輝きがぶつかり合う衝撃で、前すら見ることがかなわない。
拮抗していた小宇宙だが、牡牛座がさらに小宇宙の出力を上げたせいで、そのバランスは崩れ、そして




「おぉおおぉおおッ!!!」





閃光で、前が見えなくなる。




「くっそが…!積尸気…魂葬破ーーーーーッ!!!!」




あたしはその光に抗うように魂を爆発させる。
だけどその光には抗えず、ただ飲み込まれた。












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