余計な傷さえ



「生きてる価値だと?」
「そっ。
うまくは言えないけど…。」



あたしは頭を掻いてから、適当な場所に腰を下した。



「命は塵芥。
それはあたしの信条であり、師匠の教え。
それが揺らぐことはまずあり得ないんだけどね。」


だけど、とあたしは言葉を切った。
少し自分の中で言葉を整理しながらゆっくりと紡いだ。




「うまくは言えないんだけどさ。
 なんかこうじゃないと実感が持てないんだよ、生きてるってことに対して。
 カルディアの馬鹿じゃないけど、そう思う。」
「傷つくことが生きているのことの実感なのか?
 確かに、痛みによって生きていることを実感はできるが…お前らしくないな。」
「当たり前じゃん。
 あたし痛いの嫌いだし。」


にひっと笑ってから、あたしは床に散らばる聖衣の残骸を見つめた。


「でも…なんて言うんだろうね?
 本当に、自分でもよく分からないんだけど…。」


言葉にできない感情。
ていうか、まず説明が出来ないな。


「がむしゃらにやんなきゃいけない?
 違うな…ん゛ぁあああ!!!もうわかんねえ!!!!」


考えがまとまらない!
アレ!?ほんとあたし何が言いたいんだろ!?


「…要するに、お前自身もわからないと言う事か。」
「そーみたい。
 なんかもう、わかんないわ。」

力なく笑うと、シオンはふっと苦笑いしてあたしの頬に触れた。
血豆がつぶれて堅く、かさついた冷たい手で触れながら、あたしを見つめるシオンは本当に真剣な瞳をしていた。


「変なことを聞いて悪かった。
 だが…お前に余計に傷ついてほしくなかったのだ。」







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