別れ





「愚かな…。
新たな世界のアテナになれたというのに。」


倒れたアリアちゃんが手放してしまった錫杖を手に取り、マルスはそう吐き捨てた。
その間、あたしは動けなかった。


「う、そ…?」

だって、信じたくなかったから。
アリアちゃんが…こんなことになるなんて。


マルスがアリアちゃんの体から光の小宇宙を奪っていく。
それを見ながら、あたしの体は全く動けなかった。



「さらばだ。」


マルスが、足場ごと闇の小宇宙で切り離し、中へ上がっていく。
その上には、アリアちゃんの名前を必死に叫ぶエデンの姿があった。



「ッアリアちゃん!」


あたしはそこでようやく我に返ると、
慌ててアリアちゃんのもとに駆け寄って傷口に手を翳した。



「待ってて!いますぐ止血するから!」
「ホタル!急いでくれ!」
「分かってる!!!」


そうして、あたしはヒーリングをかけた。
…小宇宙をありったけつぎ込んで、治そうとするが回復の兆しが全く見えなかった。


(失血が…多すぎるッ!
それにこの闇の小宇宙…)


アリアちゃんの傷口が焼けただれたように闇の小宇宙がまとっている。
それはあたしのヒーリングでは治せないもの…。



「…ッ」



これじゃあ、もう…


あたしは目を瞑って、翳した手を戻した。
みんなの顔を見上げて、首を横に降る。
みんなの顔が真っ青に青ざめた。



「アリア・・・!アリア!」
「みん、な…無事、なのね…?」


アリアちゃんが、あたしたちに視線を向ける。
その目は…弱弱しくも安堵に満ちていた。



「ユナ…私…あなたに出会えてよかった…」
「…ッアリア…!」



アリアちゃんの手を握りしめながら、ユナは涙を零した。
アリアちゃんはそんなユナを、悲しそうに見た後他のみんなに視線を向けた。


「蒼摩…龍峰…栄斗…みんな、ありがとう…優しく、してくれて…」



そして…次はあたしに目を向けた。



「ホタル…いつも、守ってくれて…ありがとう…。
 私、私…あなたがいつも守ってくれて…とても、うれしかった…!」
「ッ!
 アリアちゃん…ッ」


そんなこと…そんなこと!言わないで!
あたしは涙がこらえられなくなって、アリアちゃんの目を見ながらボロボロ泣いた。


「ッ…ふ、ぐ!」



アリアちゃんはあたしのことを見て、小さく微笑むと今度は光牙の目を見た。




「光牙…私、もうマルスのもとに、戻らなくていいのね…?」
「…あぁ。」



光牙が、力強くうなずくとアリアちゃんはうれしそうに目を瞑った。
しかしすぐに眼を開けた。




「でも…みんなはいかなくては…!」
「!」

「マルスを…止めて!
 この世界を…守って…!」


「アリア・・・!」
「アリアちゃん…!」


ガラガラと崩れゆく闇の遺跡。
アリアちゃんはそれを見た後、光牙の目を見てほほ笑んだ。



「行って…!
 時間がないわ…!」


「アリア…?」


アリアちゃんの体が、また淡く光り輝いた。
それと同時にあたしたちの体も光り輝き、ふわりと上に浮きだした。


アリアちゃん、一人置いて。



「アリア…!?」

「アリアちゃん…!?いやだ!アリアちゃん!!!!!
 アリアちゃぁああん!!!!」



アリアちゃんから、離れていく。
いやだ…!あんなところに一人で置いていくなんて…!

あんな優しい子を、こんな暗く寂しいところで一人死なせるなんて!



「アリア・・・!アリア!」


あたしたちは光に飲まれた。
苦しそうにほほ笑むアリアちゃんの姿が、完全に見えなくなった。





「アリアァアアアア!!!!」











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