甘言 そう、全部わかってた。 だけどあたしは、あえて知らないふりをした。 「あたしは…ッ!」 知らないふりを、していたかった…! 「あたしの所為で、師匠たちが死んだなんて…!」 全部が、もしものことかもしれない。 あたしが強かったらなんてことは、ただの淡い希望論かもしれない。 だけど、その可能性だってあった。 そうしたら、こんなことになんて… 『すべてを、闇に隠してしまえばいい』 頭を抱えて、膝をつくあたしに影は優しくささやいた。 『過去も、未来も、今も全部を闇に隠してしまえばいい。 そうすれば…もう何も悩むことはない。』 それは、誘惑する甘言。 それに乗れば、戻れなくなるのはなんとなくわかっていた。 だけど…あたしはそれに手を伸ばした。 「もう、何も見えなくなればいい。」 涙でゆがむ視界に、ゆらりと青い光がよぎった。 ← → back 141/114 |