まだまだだね



中に入ると、そこは吹き抜けのようだった。
あたしたちは警戒を怠らず、前へ進む。




「アリア!」
「アリアちゃん!」



真正面に、アリアちゃんが立っていた。
アリアちゃんを認識すると同時に、エデンがアリアちゃんの背後から現れた。


「待っていたぞ、ペガサス光牙。
そして南冠座のホタル。」

「エデン…!」
「あたしも会いたかったよ、エデン。」


あんたをぶちのめすために来たんだからさ。



「来たな、ペガサス、ホタル。」



何であたしだけ名前呼びなのかが気に入らない!
ここで言っても無駄だから言わないけどさ!


「アリア、来てくれたんだね。」
「うん…」



アリアちゃんに向かって、光牙が聞いたことないくらい優しい声で話しかける。
…あまりに優しい声に、結構ビビった。



「これ以上、アリアを巻き込むな!」


そんな優しい声さえエデンには不愉快だったのかあたしたちに向かって吠える。


「はァ!?
 巻き込んでんのはてめえと、てめえんとこの親父だろうが!」
「貴様に何が分かる!」
「分からんし、わかりたいとも思わん!
 てめえんとこの腐った陰謀なんてな!」


はっきりとそう告げると、エデンは光牙の方を向いた。


「貴様らがアリアを苦しめているのになぜ気づかない!」
「それはお前の方だ!エデン!」


その言葉を境に、火蓋は落された。
激突する二人の小宇宙に、あたしは腕で顔をガードした。



「俺はもう倒れない!
 倒れたら、お前を倒すことなどできないのだからな!」
 

…その通りだね。
倒れたら、自分の救いたいものも、守りたいものも、守れなくなってしまう。


「あたしも、もう負けないよ。」


二人の争いが、激しさを増す。


「シャイナさん!今のうちにコアを!」
「分かった!
 …ホタル、行こう!」
「…うん」


あたしとシャイナはアリアちゃんのもとへと向かった。
その間、光牙が必死にエデンを止めてくれた。



「アリア!」
「アリアちゃん!」


アリアちゃんの手をシャイナが掴むけど、アリアちゃんはそれにすら気が付かないほど、エデンと光牙を見ていた。



「お願い!やめて!」
「アリア!
 今のうちにコアを破壊するんだ!」



シャイナの鋭い言葉に、アリアちゃんはようやくあたしたちの存在に気が付いたみたいだった。


「ホタル…。
 それと…あなたは…?」
「私の名は、シャイナ!」
「あなたが…!?」
「さあ、早く雷のコアへ!」
「時間がない…早くいこう!」


「ッアリア!
 行くな!アリア!」

エデンが必死にアリアちゃんの名を呼ぶ。
シャイナがアリアちゃんの手を引いて、階段を上り始めたけど、その声を聴いたアリアちゃんはすぐに立ち止まり、そして振り返ってしまった。


「何を迷う!
 ここまで来て!」

「私は、エデンを苦しめてしまった。
 エデンはマルスの息子。
 だけど、エデンは小さい頃から私に優しくしてくれた…。
 エデンは私が雷のコアを壊すことを知ってここに連れてきてくれた!
 それなのに、私はエデンの苦しみに気付かなかった…。」
「…アテナと呼ばれるものは、いつも人の苦しみを背負っているのだな。 
 私の知っているアテナも同じ。」


…あたしの知っているアテナもそうだった。
アテナは…サーシャはいつも人の苦しみを分かっていた。

そして、沙織もまた同じ…。



「だが!
 今は迷う時ではない!
 地上を闇の支配から救うためには、コアを破壊するしかないのだ!」
「…分かっています!」



アリアちゃんは涙を流しながら、「ごめんね、エデン」と謝罪した。




「アリア…!
 アリアぁあああ!!!!!!」



エデンの悲痛な叫びが、あたしの鼓膜を刺激する。
…その慟哭は、師匠を失ったあたしの内面にそっくりで…胸が、痛くなった。



「シャイナ!
 先に行ってて!」
「ホタル…!?」


「あたしはここで、あいつらの戦いを見届ける!
 だから先に上に!」



シャイナは、あたしのその言葉に察したのか、アリアちゃんを連れて階段を上がっていった。


「…」


あたしにとって、憎悪のまなざしで見るべき相手はタナトスだった。
だけど、あいつにとって今、そのまなざしで見るのはあたしや、光牙なんだろう。


心情が、わかってしまう分…戦いづらいじゃないか。




「あたしも、とんだ甘ちゃんじゃないか。」




最早、これは苦笑するしかないよねぇ?
そう問いかけるように、あたしはエデンと真正面から睨みあった。














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