殺気の隠し方





「ふう…。」



みんな自分の時間を過ごしている。
あたしも一人、ホテルの屋根の上に寝転んで空を見上げる。
つもりだったけど、どうにも闖入者が来たみたいだ。


「…ストーカーの趣味でもあったんだっけ?」
「お前は本当に、失礼な奴だな。」


ぽつりと、わざと聞こえるように言うとすぐに返答が帰ってきた。


「だって事実じゃんか。」


シュンッと一瞬であたしの隣に立つ栄斗。
おそらくあたしが部屋にいなかったから様子を見に来たんだろうけどさ。


「…お前も、眠れないのか?」
「夜はたいてい、寝なくてもいける。
むしろ寝ないほうがいい。」


こっちに来てから、夢を見るのが怖くなった。
大抵が、師匠たちに関する夢であることが多くて…
自分の依存性の高さに呆れることが多いし。


「…それでは、体が持たないぞ。」
「持たせてみせるさ。
 …あんたこそ、寝なくていいの?」
「忍者をなめるな。」
「…忍者についてはよく分からんけど、なんか便利だね。
 その言葉。」


今更だけど、忍者ってよく分からないんだよな。

「…光牙もお前のように空を眺めていたぞ。」
「へぇ。
 あのバカもセンチメンタルになることもあるんだねえ。」
「ひどい言われようだな。」
「事実だもん。」

くすくす笑うと、呆れたような溜息が頭上から聞こえた。
それが何だかムカついて、あたしは脛を殴る。

「ッ」
「ほらほら、そう簡単に殴られるなんて足元がお留守になってる証拠だよ。
 どんな時でも対応できるように、感覚だけは研ぎ澄ませておきなよ。」


脛を押さえてうずくまる栄斗をにやにやと笑った。


「…ぅおッと!」

流石の栄斗もむかついたのか頭狙って蹴りが飛んできたから、
あたしは手を軸にバクテンをしてそれをよけた。

「あぶないなぁ。
 何すんだよ。」
「お前…本当にとらえどころがないやつだな。
 今のかなり本気で狙ったんだが…」
「てめえ、仲間に向かってそれは無いだろ!?」


少し殺気を感じたけど…まさかなぁ。
なんて笑ってすまそうと思ったのによ!

「…そんなお前が少し殺気だっているのも、やはり明日の事か?」
「!」

普通に驚いて、その表情を顔に出してしまった。
慌てて取り繕うとしたけど、バッチりみられてしまった。


「普段のお前なら、探そうと思ってもそう簡単には見つけられなかっただろうがな。
 今日は殺気が目だって見つけやすかった。」
「ありゃりゃ。
 あたしもまだまだ修行が足りないねぇ。
 殺気の一つや二つ抑えられないなんてさ。」

まだまだ、あたしも完熟になり切れない未熟者ってことか…。
完熟するにはまだまだ時間と修行が足りないなぁ。


「…あまり、気負いすぎるなよ。」


栄斗はそう言ってあたしの頭をぽかりと叩いて背を向けた。


「うん。
 おしえてくれて、ありがとう」


あたしはそれを甘んじて受けて、栄斗の背にそう言った。











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