真剣勝負




深夜、みんなが寝静まった時にあたしは一人で森の中を歩く。


「・・・・いい加減、出てきなよ。
安心してよ、あたし一人だけだし。」



ふてぶてしく笑いながら、
まるで一人芝居のように動きを付けながらあたしは言った。



「出てこないなら、この森全部燃やしてでも出させてあげるけど…どっちがいい?」



闇の中を睨み付け、青い焔であたりを照らした。


「…。
 やはり、お前は只者ではないらしいな。」


木の陰から出てきたのはセイントファイトで出会った少年。
名前は…エデンだっけ?




「ただものだよ。
 あたしはただの青銅聖闘士だし。」
「ミケーネを足止めしたのは、お前だろう。」
「ミケーネ?」

一瞬誰だから分からなかったがすぐに思いだす。
恐らく、あの獅子座の黄金聖闘士のことだろう。


「…ああ、あの獅子座の黄金聖闘士か。
 あんときは、流石にきつかったよ。
 本気で殺しに来てるやつを、足止めだけで済まそうなんて考えたんだからね。」


冷笑を付けて話すと、鼻で笑われた。


「本気でやれば黄金聖闘士に勝てるというのか?」
「さあ?
 実力が分からないから何とも言えないね。」

半分本気、半分嘘だ。
今の世代がどの程度強いのか。
実際に会わないとわからない。
もっとも、あのミケーネってやつは強いし、
あたしとは相性が悪いってのはよく分かったけどね。


「実力の差もわからないとは…とんだ期待外れだな。」
「知ってる?
 敵を過小評価するのも愚かだけど、逆に過大評価することも同等なくらい愚かなんだよ?
 黄金聖衣を着てるからって、相手が名前負けしない実力を持っているのかなんてわからない。
 相手の本気の実力が分からずに勝てるか勝てないかを決めることこそが愚の骨頂だ。」


もっとも、黄金聖衣に選ばれたってことはたいていは一筋縄じゃ行かないってことなんだろうけど…。
だけど、それだけで勝つか負けるかを決めたくなんかない。
たとえ負けるとわかっていても、絶対に退きたくない。


「…お前は、やはり他のものとは違う。」
「そう。
 褒めてくれてありがと。」


敵に褒められたところで、うれしくはないけどね。



「それで…いったい何の用?
 アリアちゃんを誘拐しに来たわけ?」
「お前らが、アリアの力を利用しているのは知っている。
 だからこそ、ぼくはアリアを助け出す。」


あまりにも馬鹿なことを言っているので、思わず失笑した。
事実の誤認ほど、おかしいことはないよね。


「利用してる?
 それはこっちのセリフだ。お前らこそ、アリアちゃんの力を利用してるんだろ?」


射抜くような視線で睨むが、相手は答えた様子はない。


「お前は、この先危険な存在になる。
 だから、僕がおまえを倒す。」
「…やれるもんならやるといいよ。
 返り討ちにされないといいね。」


ふざけたふうに笑った直後、エデンの拳があたしがいたところに当たる。



「聖衣を着てない奴をそう全力で狙うかよ!
 おま、それ卑怯!」



なんて言いつつ、聖衣をまとった瞬間に顎先狙って蹴り上げる。


「ッ!」
「ほッ…!」


ガードされたのを逆手に、足先に鬼蒼焔をまとわせる。
一瞬ひるんだすきをついて、そのまま蹴り上げた。


「っく…」
「あたし格下だと思ってなめてると…痛い目見るからね?」



蹴りあげた勢いで、一回転して不敵に笑ってみせた。


「お前こそ、僕をなめるな!」
「!」


紫電が、あたりに落ちる。
それをバックステップでよけると一気に間合いを詰めたエデンの拳が胴を狙ってきた。



「はぁっ!」


それを左脚で防いで、膠着状態になった。
この態勢は、分が悪いなぁ…。



「なぜ…」
「?」



「なぜ、僕と張り合える力を持ちながらなぜ父上に仇なす!
父上の作ろうとする世界に…」




一瞬、理解できずにぽかんとしたが理解すると驚きの事実が分かった。


「父上?
 …もしかして、あんたの父親ってマルスなわけ?
 へぇ…。」



雷と焔がぶつかり合う。
周りの木々が燃えて、あたり一面ひどい状況になった。



「その質問は愚問だよ。
 だってあたしはアテナの聖闘士。
 例え、相手がどんなに世界を平和にするために尽くそうとも。
 逆に世界を混沌へと落そうとしようとも…あたしが仕えるのはただ一神。
 アテナだけだ。」

「古いアテナなど世界の礎になる!
 新しいアテナ…アリアこそアテナだ!」


その言葉に、あたしはエデンを睨んだ。
怒りで、声が低くなる。



「古いとか、新しいとかじゃねえんだよ…!
 あたしにとって、アテナは師匠たちが体を張って、命を懸けた存在!
 いわば、師匠たちの思いの結晶なんだ!
 そんな人を裏切るような真似は…あたしは決してしない!」


魂の焔の勢いがさらに強くなる。
流石にその冷たい熱さに、エデンが距離を取った。


「ただの属性ではないな…その炎。」

「普段なら恰好よく説明してさせ上げるけど…
 敵に塩を送るような真似はしないでおくよ。」


指先に燐気を集め、必殺の技を繰り出そうとした。



「積尸気…冥界ッ!」




その瞬間、体が重くなった。













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