神聖なる滝の前で



今までとはまるで雰囲気の違う世界。
靄がかかる木々と岩山は、おごそかで神聖な雰囲気を出していた。



「ふおお、絶景絶景!」
「流石五老峰ね。」


テンションが上がっている二人をしり目に、
あたしは何とも言えない気持ちになっていた。


「五老峰、か。」


確か、此処は天秤座の黄金聖闘士・童虎の修行場所だったところ…。
…胸が高鳴る。

ここに来たって、童虎はいないのに。

旧友がいた場所に来て、意識したくなかったのにあたしの意に反する心は喜んでる。


「馬鹿だ…。」


そんなことを思ったところで、
ここにきて喜んだところで、


思い出を語る友など誰一人いないのに。




「ホタル…?」



アリアちゃんが、小さくあたしのことを呼んだ。
独り言のつもりだったけど、聞こえてたのか。
あたしが何でもないよ、とお茶らけるつもりだったが一人の闖入者のおかげでそれも必要なくなった。


「遅かったな。」
「栄斗!
 久しぶり!」
「よっ!相変わらず冴えないな!」

唐突に現れた栄斗に片手を上げて挨拶をする。
あんた、本当に十代?
それにしては貫禄というか、老けてるというか…。


「余計なお世話だ。
 たく、いつまで待たせる気だ。」
「いやあ、山道が大変でよ。」
「それに道中いろいろあったからねぇ…大目に見てよ!」
「龍峰はもう、とっくについている。
 いくぞ。」


そう言って、さっさと歩きだす栄斗。
あたしはなんとなく、からかいたくなって先を歩く栄斗の肩に背後から手を回し、腕をからませた。



「相変わらず不愛想だねぇ〜!
 そんなんじゃ、女の子に嫌われちゃうぞ?」
「俺にはそんなこと関係ない。
 それよりさっさと離れろ!」
「折角からかってやったのに…つれないやつ!」


なんてふざけながら先を急ぐ。
ほーんと、真面目で不愛想な奴ほどからかって楽しいものはないよね。




――

深い森を歩きながら話に花を咲かせる。
今までとは違い穏やかな環境に少しだけ気が緩む。


「まさか龍峰の故郷に水の遺跡があるとはね。」
「ここは水が豊かだから、あっても不思議ではないけどね。」


そして、ここは雄大な自然の気と小宇宙が満ちている。
だからこそ、童虎もここを修業の場として選んだんだとあたしは思う。
童虎にゆかりがあるこの地を荒らす水の遺跡を許すわけにはいかない。



「それで、龍峰はどこにいるんだ?」
「家で待っている。」


大きな滝が見える崖に案内された時、ふと強大な小宇宙を感じた。
その小宇宙に、あたしは一瞬錯覚してしまった。
いるはずがない。
とうの昔に死んだという、古い友人の姿を。



「どう、こ…?」








自分の声が、遠く聞こえた。















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