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一瞬虚を突かれて、唖然とした名無しの体がまたも地面に伏せる。
しかも、今度は地面が割れる勢いで。



「…!?」






私は突然のことに理解できず、呆然と上がった土埃を見る。
すると誰かが私の肩に手を置いた。



「あ、アルバフィカ!?」



私の肩に手を置いていたのは、たおやかに笑うアルバフィカだった。



「ナナシ。怪我はないかい?」
「うん、大丈夫。大丈夫だけど…」



ちらり、と地面にめり込んだ名無しを見る。
身動き一つしないで、本日三度目の地面と仲良し状態な名無しに、生きてるほうが不思議に思える。
ていうか、あれ大丈夫?死んでない?

なんて言う視線をアルバフィカに向けると苦笑いされた。



「大丈夫、あの程度じゃ名無しは死なないよ。
 あぁ見えてすごい頑丈なんだ。
 それに、あいつがいるから死ぬに死ねないしね」

「…あいつ?」



アルバフィカのその言葉で気づいた。
今まで、名無しにばかり気がいって気が付かなかったが、その近くで仁王立ちする黄金の鎧。



蟹座のマニゴルドが鬼の形相で立っていた。
鬼気迫るマニゴルドの口が、ゆっくりと開いた。


「てめえは何度問題起こせば気が済むんだ、この馬鹿弟子が。
 余計なことした上に余計なことまでべらべらと口走りやがって…!
 積尸気に送るぞ、てめえ」


バキバキと指の関節を鳴らすマニゴルド。
今までにないくらい、恐い。
第三者である私の方が震えてしまうほどの怒気に、心持ち若干アルバフィカに寄った。
アルバフィカもさりげなく私の肩を寄せてくれる。



「こんの…!
 ナナシに危害加えたことに関しては反省してるし!悪いとは思ってるけれど!
 あたしが言ったことに関しては事実じゃないか!
 弟子にまで悟られてるようなことを言って何が悪い!」


生死不明だった名無しは撃沈していたのが嘘のように勢いよくと立ち上がりマニゴルドと向かい合った。
先ほどの攻撃の破壊力で仮面が割れてあらわになった素顔は涙目だった。


「弟子…?
 もしかして、さっき言ってた師匠って」
「ああ。
 マニゴルドのことだ。」
「へえ!名無しってマニゴルドの弟子だったんだぁ!
 黄金聖闘士の弟子ならそりゃ強いよね」



言われてみれば、マニゴルドと名無しは雰囲気とか、そういうのが似てる気がするなぁ。


「ついでに言うのであれば、あの二人の底辺に近い内容のくだらない喧嘩は日常茶飯事だ」
「…あはは。」



アルバフィカ、容赦ないお言葉で…。
あまりの言葉に乾いた笑いしか出ないが、実際あの二人の喧嘩は第三者には理解できないものなんだろうと当たりをつけた。



「てめえは実力もないくせに口ばかりが先言ってるんだよ!」
「まだまだ未熟なかわりにこれから先大きく伸びる可能性があるんですぅ――!
これ以上伸びようがないマニゴルドとは違うんですぅ――!」
「てめえ!師匠に対してなんだその口に聞き方は!」
「そりゃそうでしょうねえ!あたしの口の悪さはどこぞのアホ師匠譲りですからねぇ!
 敬語使ってるだけ良しとしろやこらあああ!!!!
「てめえのは人を敬う言葉じゃなくて人を馬鹿にするためだけの言葉だろうが!」


どんどん口論が白熱しているが…内容的には子供の喧嘩並みだった。
少なくとも、聖闘士最高峰の黄金聖闘士とその弟子の会話じゃない気がするんだけど…。



「あれはあれで、あの二人のスキンシップだよ。
 むしろ、あれがないとあの二人は調子が出ないらしい」
「…それ、本人たちはいいとして周りはかなりはた迷惑なんじゃ?」
「ああ。かなり迷惑だ。
特に巨蟹宮前後の双児宮や獅子宮はかなり迷惑しているらしい」
「騒がしいことこの上ないな」


アルバフィカとハスガード。
二人の黄金聖闘士に認識されるほどあの二人の口論…もとい仲の良さは折り紙付きらしい。

「口喧嘩だけならまだしも、加熱しすぎると技が飛び交うからね」
「修行を含めた口論なのやも知れんぞ?」
「マニゴルドがそこまで意図しているとは思えないが…」

修行込みの喧嘩だとしても、技が飛び交う師弟喧嘩。
想像するだけで恐ろしい。


「……はた迷惑な師弟だね。」
「「まったくだ」」


即答で同意する二人に、思わず脱力してしまった。
よほど迷惑を被っているらしい。
…マニゴルドの師匠は確かセージさんだよね。
そんなはた迷惑な師弟を持って、セージさんも大変そうだなぁ…。



「というか、だんだん私とは関係ない方向に話し跳んでるけど…もう戻っていいかな?
これ以上いるとなんか危ない気がしてきた」



二人とも今にも小宇宙爆発させそうだし。
むしろ、今にも血の雨降らせそうな勢いだし。



「その通りですな。
 そろそろ技を使い始める頃合いでしょう」
「英断だね。
 それにそろそろ二人の共通の師匠が来るだろうから、私の宮で紅茶でも飲まないか?」
「それ、賛成。
 ハスガードも一緒に行こうよ!」
「嬉しいお誘いですが、私はこのまま他の聖闘士と候補生を避難させてきます。
 ついでに稽古もつけねば」
「流石ハスガード…」
「お褒めいただき恐縮ですな。
 では、失礼します」


テンマと耶人を連れて下がるハスガードに手を振ってから、私とアルバフィカもその場を後にした。
触らぬ神に祟りなし。
本当はもうすこし名無しと話したかったけど…また話せるからいいかな。



「アホみたいな喧嘩やれてるくらい、平和なんだからさ」




12宮の階段から見上げた空は、今日も青くてどこまでも晴れ渡っていた。













そう言ってあたしは、大きく伸びをした。
今度、名無しと話すときに名無しから見た黄金聖闘士の話を聞きたいな。




































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